3. タイピングバトル

山名

じつは石原さんは最初からタイピングでバトルできないか、
という話を雑談レベルでされていたんです。

石原

そうなんです。
本来なら教材として、あいさつ文くらい打つものなんですが、
このソフトでは、ポケモンの名前でバトルがやりたかったんです。
たとえば、強いポケモンなら、いろんな文字で攻撃してきて・・・。

山名

そこでうちのスタッフはいろいろな仕様をいろいろ考えたんです。
正確に打つとエネルギーがたまってバトルパワーが上がるとか、
タイプ別のエネルギーを打ち分けるとか(笑)。

岩田

それはすごいですね(笑)。

山名

これで「できた!」「発明だ!」とか言って
石原さんに見せたら「あー、こんなのいらないよ」って
一蹴(いっしゅう)されてしまって(笑)。

一同

(笑)

山名

「ポケモンの名前を打って倒せれば、それでいいんだ」 と。
「ええーーーっ!」みたいな感じで、
しょっぱなから、パンチをくらったんです(笑)。
今回、石原さんがパワフルにバーンバーンと
決断されていたのが、すごく面白かったです。

岩田

でもこういうソフトはどこかで決めないと、
まとまらないんですよね。

山名

ええ、永遠に迷走できてしまいます(笑)。
そもそも、ポケモンの名前を打ってつかまえるという
くり返しだけで、60コースもあるんです。
だからある程度、コアの部分を
複雑につくらないともたないのではないかと、
何度も迷走した時期がありました。
今回は本当にゲームのつくり方を学んだ気がしました(笑)。

岩田

山名さんがそこまでおっしゃいますか・・・(笑)。

山名

いやいや、ほんっとうに空回りしてばかりで、
まわりのみんなにご迷惑かけたんです。
今回ばかりは原点回帰といいますか・・・。

岩田

でも本来、ゲームはシンプルなことのくり返しなんですよね。
自分の指に経験値がたまっていくことが面白いのは、
よくできたゲームの特徴ですから。

山名

そうですよね。このソフトはいわば、
昔ながらのアクションゲームなんですよ(笑)。

岩田

ああ、確かにものすごくストイックなアクションゲームですよね。
このソフトは、ある意味ゲームをつくるうえで楽できる部分を
全部ふさがれた状態でつくっている感じがします。
経験値や魔法で解決できないので、
山名さんが使い慣れた手口が使えないわけですから。

山名

そうなんです。じつはアイテムも途中まであったんですが、
「このゲームに複雑なものはいらない」ということで
なくなりました。

安藤

最後は、ゲームのなかで「上手になろう!」と言わせようか、
というところまで追いつめられたんです。
でもそれだと「知らない間にうまくなる」コンセプトから
外れてしまうので、どうすればいいか、
最後の最後まで悩んでいました。

岩田

「気づいたら上手になっている」という
手ごたえを感じたのは、どういう工夫からですか?

安藤

特別に何かを入れたから劇的に変化したというよりも、
小さな積み重ねをいろいろ投入したことで、
少しずつ「あれ? いいんじゃないか?」
という気持ちが芽生えていきました。

山名

そうですね。いいと言われたものは残して、あとは捨てる。
毎週、とにかくそのくり返しでした。

岩田

でも長くやっていると、どんどんわからなくなりますよね。
それはどうやって補正していましたか?

安藤

部署のグループ内であんまり遊んでいない人を探して、
遊んでもらって、感想を聞いていました。

岩田

はじめてさわった人が感じるストレートな感想に、
ヒントが常にあるという感じがしたんですね。

安藤

はい。ただ、普段からみんなタイピングができるんです。
だから5階からスタートしても、みんな平気なんですよ。
なので、キーボードを反対にしてやってもらっていました。

岩田

なるほど(笑)。

石原

そうすると、初心者の小学1年生くらいの気持ちになれるんです。
まだアルファベットも読めないし、
カタカナひらがなもおぼつかない状態でさわりはじめた場合、
記号の模様を見て、これが“A”なんだってわかってくる。

岩田

はじめは、文字を模様として認識しますからね。

山名

そうなんです。最初のコースでは、5〜6歳のお子さんがやっても、
われわれ大人がやっても楽しいものにしてほしい、
というオーダーもあったんです。
無茶な要求だと思ったんですが、プログラムを工夫して、
うまい人にはそれなりにハードルが高くなる設定にしたんですね。
だからうまい人ほど、限界が高くなっていくんです。

岩田

ああ。序盤で難易度曲線がスーッと早めに上がっていくなと
感じたんですが、そのあたりに秘密があるんですね。

山名

そうです。小さいお子さんは2〜3匹打てたら終わりなんですけど、
岩田さんは多分、25匹とか40匹を打てるところまでいけます。

安藤

ゆっくり打っても間違いじゃないので、プレイする人によって、
多分手ごたえは違うんじゃないかなと思います。

石原

あ、そうそう、小指の使い方がこの歳になってうまくなったんです。
まだ進化できるから、しっかり教材にもなっていると感じました。
それはピアノを覚えるレベルと近いです。
小さいころからやれば、すごく速く打てるようになるんだなあって。

山名

そういう意味ではこのソフト、最終までやりきろうとすると、
相当タッチタイピングが速くないとできないんです。
マリオクラブさん(※8)に「もう少し難易度下げてくれ」
と言われたくらいなので。

※8

マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

岩田

えっ? マリオクラブからそう言われたんですか?

山名

はい。さすがに最後は難易度をちょっと下げましたけど(笑)。
でも相当やりごたえはあると思います。

安藤

担当のわたしもフルコンプはいまだにできていませんが、
このソフトをやって確かにタイピングが速くなりました。

岩田

これは世の中によくあるタイピング練習ソフトと明らかに違いますね。
ビルの上のほうを、そこまでつくっているソフトはないと思いますから。

山名

わりとずーっと遊んでもらえるんじゃないかと思います。