2021.10.8

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

有機ELモデル〜見えない変化

ここまで「見える変化」を中心にお話しいただきました。
では、次に有機ELモデルの外からは「見えない変化」について、紹介いただけますか。

山下

「見えない変化」としては、
まず本体保存メモリー容量を、これまでの32ギガバイトから、
64ギガバイトに倍増したというのが挙げられます。

以前に比べてダウンロード版のゲームを
選んでいただけるお客さまが増えましたし、
これまでのNintendo Switchで容量を目一杯使っているお客さまが
有機ELモデルに買い替えたとしても、
まだ入りますよという形になった方が良いと考えて変えたものです。

Nintendo SwitchはmicroSDカードを挿して
容量を拡張できるようになっていますが、
買った時点から容量が多いに越したことはありませんので、
増やすことにしました。

もう一つ、最初に「見えない変化」として挙げられていたスピーカーは、
これまで「新しくなった」とだけ紹介されていましたが、
具体的には何が変わったのでしょうか。

山下

まず、スピーカー自体の部品を変えました。

また、聞き比べていただくと、その違いがよくわかるのですが、
変更したスピーカーを活かして音を響かせるために、
音が出るまでの機構や、
スピーカー周辺の構造を設計しなおしました。

画面も大きくなって、
その反面、本体内で使える体積が減っている中で、
音をどう良くするかというのも技術的には大変だった部分です。

ですが、テーブルモードでおすそわけプレイ※8をしたり、
携帯モードでプレイしたりする際に、
画面が大きくなって見やすくなった分だけ、
音も大きくクリアにしたいという思いがありました。

※8Nintendo Switchのコントローラーである「Joy-Con」の片方を、一緒にプレイする相手に渡し、Nintendo Switch本体を囲んで二名で同じゲームソフトを遊ぶプレイスタイル。

もともとスピーカーを新しくするというのは、新モデルの企画の中で予定されていたことなのでしょうか?

山下

新モデルの開発において、
これまでのNintendo Switchと同等以上の音質・音圧を
実現したかったのですが、
それまで採用していた開放型スピーカー※9というタイプのスピーカーを
新モデルに入れてみると、
設計上の制約から、音が小さくなってしまうことが分かったんです。

同じスピーカーのままで、設計を改良できないかも試行錯誤したんですが、
結果的に密閉型スピーカー※9といって、
スピーカーの背面側を密閉させることで
音質や音圧を上げられる別のタイプのスピーカーを
採用することになりました。

※9開放型スピーカーと密閉型スピーカーの違い

密閉してしまうと音がこもったりしないのでしょうか。

山下

スピーカーって振動によって、
前面・背面両方から音を出しているんですけど、
密閉型スピーカーは、前面と背面から出る音の衝突を防ぐことで、
よりクリアな音が出せるんです。

この密閉型スピーカーは、
スマートフォンやタブレットにもよく使われているのですが、
通常スマートフォンやタブレットでは、
すでにメーカーさんで密閉状態に製造されたスピーカーを
そのまま搭載していることが多いと思います。

ですが、今回の有機ELモデルの限られた空間の中で、
少しでも大きいサイズのスピーカーを採用して、
満足のいく音質と音圧を実現するためには、
本体の構造を使って、
背面の密閉空間を自分たちの手で設計して
作り出す必要がありました。

これまでの開放型スピーカーを採用すると音量が落ちてしまう、
でも密閉型スピーカーを採用するためには、
音をクリアに出すための密閉状態の設計が難しいということですね。

山下

はい。
せっかくスピーカーを変更しても、
密閉が損なわれると音質が悪くなってしまうので、
スピーカーを入れる場所を用意しておきながら、
そこに決められた大きさの密閉空間を確保して、
よりクリアな振動を限られた空間の中で作るというところが、
今回のスピーカー周りの設計で一番難しいところでした。

スピーカーから鳴らせる音が大きくなった分、消費電力も変わるのでしょうか。

山下

厳密には、これまでのNintendo Switchよりも、
スピーカーへ入れられる電力の最大値は上がっています。
ですが、スピーカーって最大音量でずっと音を出し続ける
という使い方はあまりしませんし、
全体で見ますと、
これまでとほとんど電力差がないレベルだと思います。

塩田

ただ、最大の音量で出したときに、
最大の消費電力にはなるので、
回路全体で見てスピーカーがどれだけ電力を使えるようにするのがよいか、
バランスを考えて設定しています。

総合的に見ると、スピーカーを変えたことで
バッテリー持続時間が短くなるようなことはありません。

山下

今回の新モデルは回路構成を変えずに、
音量をなるべく大きくしつつ、
音をクリアにするために設定を調整する
ということにチャレンジしていますが、
この調整は非常に難しかったです。

塩田

スピーカー、機構設計、電力、
それぞれを改良するのではなくて、
これもまた有機ELディスプレイを採用したときと同じように、
細かい調整を組み合わせて、スピーカー全体としての性能を、
みんなで向上させていったんです。

山下

あと、スピーカーの調整という話だと、
音の調整をおこなっていたスタッフは、
ピアノの音を使うと
異音に気づきやすいことから、
自分でピアノ曲を作曲して、
音を調整していたようです。

まさかエンジニアの自分が
作曲するとは思っていなかった、というような話もありましたね。

なるほど。細かなアイデアや工夫がたくさん隠れていたことが分かりました。
では、他に気づきにくいところで、「実はここも変えているんですよ」というポイントがあれば教えてください。

山下

細かいところだと、
いろいろとちょっとずつ変えているポイントがあるんですけど、
まずこれまでのNintendo Switch本体裏面にあった、
規格・規制系の表示が別の場所へ移っているのをご紹介します。

デザイン的にはシンプルでスッキリした感じになりましたね。
どこへ行ったんでしょうか。

山下

スタンドの内側に行ったんですよ。
これ私は個人的に結構いいなと思っていまして、
必要に応じて見られるような形で表示できたんです。

山下さんのこだわりポイントですね。

山下

あと、これまたすごく細かいのですが、
Joy-Conグリップの真ん中のロゴを、印刷じゃなくて型として彫刻しました。

それとJoy-Conストラップも、少しでもデザインを工夫できないかと、
紐に白いドットを入れて変えていますので、
さりげなくここでアピールさせていただきます(笑)。

ストラップ

他にも同梱しているHDMIケーブルも変えています。
これ、結構お気に入りでして、ケーブルがしなやかなんですよ。

(触ってみて)本当ですね。これまでのものよりも柔らかいです。

山下

もともと有機ELモデル向けという訳ではなく、
ケーブルを良くしたいよねという話があって、
スタッフが以前から検討してくれていたんですよね。

それがちょうど有機ELモデルと同タイミングで採用できる
ということになったので、変えています。

山下

あとドックの方で、これまでも背面のフタの部分に、
ケーブルの取り回しを両方向にできる溝をつけていたのですが、
これ、なかなか使い方を知ってもらえなくて・・・。

裏側のフタを開けっ放しで使われているお客さまも
おられるそうです。

開けっ放しだと、フタが少し邪魔になりますね。

山下

はい。それもあって今回はフタを外しやすく構造を見直したのと、
ドックの中から伸びるのがHDMIケーブルと電源ケーブルだけでなく、
有線LANケーブルも加わりますので、
もう少しルーズにケーブルが引き回せるように、溝の形を変更しました。

この部分はデザイン性を持たせながら、
使い勝手も上げるということで、
デザイナーさんに再デザインをしてもらったポイントです。

設置のしやすさは結構満足度に関わりますよね。

山下

はい、例えば家の都合で
ちょくちょくHDMIケーブルを抜かなければならないお客さまなどは、
フタは外しておいていただいたほうが良いかと思います。

細かすぎる改良なので、
見た目のデザインを変えただけじゃないの?
と思われるかもしれませんが、
こんな感じで、実際にお使いいただく際に使いやすくなったよ、
という改良を加えていっています。

思いのほか細かい点もあって驚きましたが、それぞれが使い勝手に関わる重要な改良なんですね。