株主・投資家向け情報

2008年3月期 決算説明会
質疑応答
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Q 21  M&Aの考え方について聞かせてほしい。また「外部のリソースの活用という従来の方法ではなく、お金を投じても自社の中に取り込みたい。ユーザーを楽しませたり、驚かせたりする技術として、また権利として、社内になくて取り込みたいもの」というのは、今何か考えているものがあるのか教えてほしい。
A 21

岩田:

 「保有するお金が増えたけれどどうするんだ」とか、「お金を持ちすぎだ」とよく外部の方からご指摘をいただいています。任天堂はまず非常に大きなビジネスリスクを負うビジネスをしています。たとえばWiiやDSの開発中に、「これは絶対うまく行く」とは誰も言えないわけです。僕らはうまく行くようにしたいと思って最大限努力しているのですが、どちらかというと作っている途中では、業界の皆さんの反応は冷ややかといったほうがよかったかもしれませんし、それぐらい当時の世の中の常識からすると逆行していて、「逆張りだ」という言われ方さえされました。

 ですから、もしあの時点で任天堂に自己資金がなかったら何が起こっていたかというと、当社にいろいろな技術や部品を供給してくださるパートナーさん、あるいは製造を請け負っていただけるパートナーさんが不安に思われたはずです。不安に思って、「本当にあなたが言うように作って大丈夫なの」、「取りっぱぐれるのではないの」ともし感じられたら、任天堂が精一杯アクセルを踏んでくださいとお願いしても付き合っていただけなくなるわけです。

 またもし任天堂が、「今度こういう機械を作ってお客さんに驚いていただくことにしたので、それを説明して市場から資金を調達します」、あるいは「銀行さんからお金を借ります」といっても、実際に製品ができる1年半も2年も前に全部タネをばらして、それが世の中に流通したあと、ものができたときに、お客さんに驚いていただけるとは思えません。従来的な資金利用効率から考えると、特に他の産業の方からすると極めて効率が悪いように見えるかもしれませんが、任天堂のビジネスの業態というのは、「財務体質が強くないと思い切った手が打てない」という特徴があります。

 ですから、まずそのために自己資金は要ります。かつわれわれのビジネスにおけるビジネスリスクは年々大きくなっています。これがもうこれ以上大きくならないとわかったら、「ここから先はもう要らないので全部株主にお返しします」と申し上げればいいのですが、そうなっていません。今は「配当性向(連結)50%、連結営業利益の33%の多い方を配当総額とする」という日本の会社の中で最も積極的に株主還元の方針を掲げているので、これで私たちが厚めの手持ち資金を持つことを認めてください、それを納得して皆さん、投資してくださいというのが任天堂の姿勢です。

 それに加えて、たとえば「任天堂がソフト会社をM&Aで買ったら、任天堂の立場はもっと磐石になるじゃないか」みたいなことをお話しいただくことがあるのですが、私はそんなつもりはありません。それを買っても会社には本当の力はついてきません。会社ではなく人についているノウハウでできあがるものは、私はM&Aは無意味だと思っています。

 しかしM&Aが有効な場合もあります。たとえば「ある会社が非常に重要な特許を持っていて、任天堂はその技術がどうしてもほしい。その技術があれば、将来のビデオゲームビジネスできわめて有利に戦える」ということがもしわかったとしたら、このときこそ任天堂がM&Aをする可能性は大いにあります。またそのときは躊躇すべきでないと思います。

 ただ、それは会社に属しているノウハウ、主に知財でしょうか、知財ノウハウを手に入れることがきわめて有効であるという場合だけです。私は任天堂の考え方、任天堂のDNAと呼べる考え方をお持ちでない方がグループの中に急激に増えてもプラスになるとは思っていません。したがって、「業績がそろそろあまり伸ばせないから、M&Aで伸ばす」というような発想はしたこともありませんし、またするつもりも全くありません。これが、任天堂のM&Aに関する考え方です。

 なお、当然注目している技術や権利はあるのですが、これについてはお話しできません。

Q 22  ハードの採算性について聞かせてほしい。今期値下げはないという想定のようだが、ハードの生産コストのファクターや今まで以上のコストダウンを想定しているのか、していないのか、教えてほしい。
A 22

岩田:

 当然ハードはたくさん作り、時間が経てばコストは下がります。ただし、外部のいろいろな方が書かれるレポートを読んでいつも感じるのですが、「こんなに速いペースでコストが下がったら、ゲームビジネスはもっと楽なんだけどな」と実は思っています。それくらい、そんなに簡単には下がりません。といいますのは、最初から任天堂が作ることを保証している量は、ある程度大きいのです。大きい量を保証してお願いして、しかもある程度長期間安定して供給できることを前提に、ゲームの機械は性能や実際にできることの割に安いコストで作られていて、あの値段で売れるわけです。

 コストは下がってきていますが、たとえばDS Liteが作り始めたころから今までにコストダウンしたようなペースでこれからも下がるかと聞かれると、いや、これからはあまり下がらないと思います。DS Liteが、これからもものすごい勢いでコストが下がるかというと、そんなことはないし、それはリニアには続かないなと私は感じています。

 ですが、当然、コストダウンに関して努力するのは当たり前ですし、それによってより高い収益を上げられるように、もちろん努力は続けていきます。

 Wiiも当然コストは下がると思います。ですが、心臓部の半導体の値段の占める割合が支配的に大きい機械と、Wiiのようにそれが支配的に大きくない機械では、半導体が下がったらどれだけコストに寄与するかという部分が違ってきます。おそらくそのあたりの前提が違うために、外部で分析されている方のコストダウンのペースが、私たちの実態よりも速いペースで見られるのかなという印象はあります。

Q 23  Wiiの今の世界のネットの接続率を、できれば地域別で教えてほしい。また、Wiiウェアは、先ほどの海外の新しい作品の事例を見ると、新しい作品や新しい開発者の発掘の場としても活用していきたいという印象を受けるが、どういったユーザー層がターゲットになってくるのかを教えてほしい。
A 23

岩田:

 ネットの接続率は、プラットフォームの序盤は一番熱心なお客様が先にわっと買ってくださいますが、その方たちによる(初期の)ネット接続率に対して、何もしないとたぶんだらだらと下がっていきます。今われわれがいろいろな取り組みをする、たとえば日本でいえばNTTさんと協業して、ネット接続率を高めるためのキャンペーンを一緒にやることによって、放っておけば下がってしまうのが、そうならずに、わずかに増やすことくらいはできるようになっているのが実態かと思います。もし何もしていなければ、きっと下がってしまうでしょう。時間が経つにつれて、そういうことに熱心さを持たれる方の割合が減っていくからではないかと思います。

 その意味でいうと、世界的に見たネット接続率は、以前に数字を申し上げたときから劇的には変わっていません。全体の傾向としてネット接続率が最も高いのがアメリカで、ネット接続率が一番低いのが日本です。これは客層もあるかもしれません。すなわち、アメリカでWiiをお持ちのお客様は、熱心にゲームを遊ばれるお客様の割合が高いために売れるゲームの種類もアメリカと日本で傾向が違いますが、そのことも多少影響しているかもしれません。また、ヨーロッパはその中間です。具体的に何パーセントずつという数字を申し上げるような材料は、今日は用意してきていないのでお話しできません。

 Wiiウェアは、今ご指摘があったように新しい作品、あるいは新しい開発者の発掘という位置づけがあります。また、普通には失われてしまったチャンスを開発者の方に、あるいは逆に遊び手からしても、全く新しいゲームに触れるチャンスを増やしたいと思います。

 Wiiウェアは、こういうお客様をターゲットにするということよりも、Wiiウェアだからできる、全く異業種の方が全く異なるサービスをすることも考えられると思います。パートナーさんが発表されることなので、具体的にお名前は申し上げられないのですが、日本でもゲーム業界とは全く無関係の方が、「Wiiのチャンネルとして見えるWiiウェアを作って、こんなサービスをしたい」ということでご提案をいただいています。その方たちが実際にサービスインされたときには、「これってゲームじゃないか」というものも出てくる可能性があると思います。また、そういうことを小さなリスクから、スモールスタートで始められるところに、今回のWiiウェアの一つの特徴があると思います。

Q 24  リスクとして感じている点が二つある。ひとつは、マイクロソフトが、年末までにWiiのコントローラと同じようなタイプのコントローラを投入するのではないかという噂が出ているので、それに対する社長の考え方を教えてほしい。もう一つは、来年以降の話になるかもしれないが、コンソールおよびハンドヘルドのビジネスに対する新規参入者の動きついて、アップル社等の名前がよく挙がってくるが、こういった新規参入の動きに対する社長の考え方を教えてほしい。
A 24

岩田:

 噂は私も存じておりますし、Wiiリモコンそっくりの、ファンの方が作られたであろうフェイク画像、「こんなものが出るのではないか」というものもネットで見ました。ただし、仮定の話にコメントしてもどうにもなりません。ただ、Wiiリモコンを活かしたソフトを作ることは、そんなに簡単なことではありませんし、私たちは「他社さんが何をしてくるのか」ということよりも、「黙っていたらお客さんはきっと従来のWiiリモコンの遊びに飽きていきますからまた新しいものをお示ししないといけない」ということをより気にしています。ですから、マイクロソフトさんが何かしそうだからということで、やることは特別変わりません。すなわち、「任天堂はまた新しい驚きをこれから次々と出していけるのかどうか」が重要で、それが出し続けられれば、それ(他社さんがWiiと同じようなタイプのコントローラを投入すること)が巨大な脅威になることはないのではないかと思います。ましてや、こういう分野で幅広いお客様にアピールすることは、任天堂がいち早くそのポテンシャルに気づき、一番長く経験してきたわけですから、気にする必要はないだろうとは思います。

 そのほかにいろいろな会社が入ってきたらどうするかですが、先ほど申し上げたようにゲームビジネスは非常にビジネスリスクの大きい、新規参入はなかなか難しくなっているビジネスだと思います。その会社さんがどこかから出てきて、たとえばアップルさんでも、それが具体的にどんなものかを見ないと、私は何もコメントのしようがないです。

 新規参入についてどうこうというのも先ほどのお話と一緒で、こんなリスクがあるからということよりは、「私たちが今ご支持いただいているものでもお客様は飽きていくだろう。お客様が飽きるより早く、僕らは次の提案が出せるか」が最も重要だと思っています。出せれば任天堂がご支持をいただける期間は延びていくし、出せなければ、「任天堂はあのときがピークだったね」と近い将来に言われるだけなので、そこをしっかりやりたいです。

Q 25  Miiのライセンス基準について、教えてほしい。たとえばスポーツゲームなどでMiiが出てくる場合と出てこない場合で、売上げが変わる可能性があるかと思うが、そのあたりの基準が初めから企画されていたのか、どういったところにあるのかを教えてほしい。
A 25

岩田:

 Miiのライセンスは、任天堂にとってマリオをライセンスするのと同じことだと思います。ホームページで展開している「社長が訊く」というインタビューの企画を読んでいただくと、Miiはどのようにできたかが詳しく書かれています。もし可能でしたら是非そちらをお目通しいただきたいのですが、実はMiiは10年がかり以上のトライでやっとかたちになったものです。

 これは発案者の宮本自身が、「Miiのライセンスはある意味マリオのライセンスと同じだ。だから、それに値すると任天堂が感じたらライセンスしたらいい。そうでないのにWiiでソフトを作るなら誰にでもMiiのライセンスは使い放題にしようとすると、Miiのブランドイメージが傷ついてしまう。マリオを誰にでもライセンスしないのと、Miiを誰にでもライセンスしないのは同じではないか」と言っています。

 それが今任天堂のポリシーです。企画の段階で、実際にMiiをどのように使われるかをソフトメーカーさんと相談しながら、当社のライセンス窓口で個別に対応しています。

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