ゲーム体験を支えるBGMをゲーム体験を支えるBGMを

緊張感のあるBGMに切り替わる演出

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』において、効果音(Sound Effect:以下「SE」)は非常に重要な要素です。例えば、岩が転がる音、魔物たちの鳴き声、遠くから聞こえる雷鳴、それにリンクの足音なども含めて、SEは冒険を進めていくうえでとても重要な情報源になっています。一方で、それを補完する役割を担っているのがBGMです。もちろん、「ゼルダの伝説」の世界を印象づけるメロディアスなBGMも重要なのですが、プレイのテンポ感を妨げず、SEが聴き取りにくくならないように、音色や音程がバッティングしないような曲作りも大切で、何よりゲーム体験を支えるようなBGMを制作することが求められます。

作曲・編曲担当の私は、このゲームの開発に参加し、ダンジョン内のBGMやキャラクターのテーマ曲、さらにはムービーシーンのBGMなどを作曲したのですが、最も手応えを感じることができたのは、積乱雲の渦の中に浮かぶひときわ巨大な船への道のりで流れるBGMの制作でした。曲としては薄味ではあるのですが、私にとって、新しいBGMを作ることができたという達成感を得ることができました。

曲作りで課題になったのは、このゲームが広大かつ自由度の高い世界で作られていることでした。曲の区切りを演出するのが難しいうえに、激しい降雪の中を長い時間をかけて、天空へと昇っていくために、メリハリをつけづらいところもありました。そこで、出発地点となる雪山を低高度、その上空にある遺跡ブロック群を中高度、さらに幾艘もの船が漂う天空を高高度、そして積乱雲の渦の中に飛び込む場面をラストシーンというように、段階的にエリアを分けることにして、高度が上がるほど、緊張感のあるBGMに切り替わる演出を施すことにしました。

逆算してBGMを作り上げる

このイベントは、とても長い道のりの末に、天頂に浮かぶ最後の船にたどり着き、そこから眼下に見える積乱雲の渦の中のひときわ巨大な船に向かって、スカイダイビングで飛び込むシーンがあります。私には、それがとても劇的なシーンだと感じられたため、まずは、そのクライマックスにふさわしい曲作りからはじめることにしました。そして、そこに至るまでの道のりの曲は逆算的に作ることにしました。

最初は少なめの楽器のBGMでスタートし、高度が上がるにつれて楽器の数を増やすようにすることで、この積乱雲に隠された元凶に少しずつ近づいている感じや、高く昇れば昇るほど、寒さが厳しくなるという状況の変化を演出することができました。また、最後の船にたどり着き、そこからジャンプして積乱雲の上に飛び出したとき、吹雪が止んで青空が視界に広がるのですが、その場面ではあえて無音にすることで、晴れの光景を印象づけるような演出も行いました。そのように制作したBGMを、プログラマーに実装してもらってから実際にプレイしてみたのですが、狙い通りの演出を実現してもらえたことにとても感動しました。

作曲・編曲担当の仕事の魅力は、自分がこだわり抜いて作った音や演出を、世界中のお客様にお届けできることです。しかも、プログラマーやデザイナーなど、職種の異なるスタッフと隣り合った席で働いていますので、密に連携しながら曲作りができるのも大きな魅力です。細かなコミュニケーションを積み重ねられるからこそ、細部まで磨き上げることができ、妥協のない曲作りができるところもまた、任天堂でのサウンド業務の大きなやりがいになっています。

社員略歴

大橋企画制作部/2019年 入社
2019年「サウンド系」入社。
作曲・編曲スタッフとして、Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』(2020年)、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023年)の開発に携わる。

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