任天堂では、ゲームの世界観を伝えるために制作されるロゴやイラストといったグラフィックデザインを「アートワーク」と呼んでいます。このアートワークは、ゲームソフトのパッケージや販売店のPOP、カタログ、ポスター、さらには任天堂ホームページや広告記事など、さまざまな媒体で使用されます。私はグラフィックデザイナーとして、これまでに数多くのアートワークを手がけてきましたが、とくに心に残っているのが、Nintendo Switchの『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』のデザインです。
このタイトルは、1985年にファミリーコンピュータ用ソフトとして発売された『スーパーマリオブラザーズ』の流れをくむ横スクロールアクションゲームで約11年ぶりの完全新作です。任天堂を代表するタイトルの1つであり、子供のころから好きだったマリオのアートワークを担当できると聞いたときは、心の底から嬉しかったです。
ゲーム発売のおよそ1年前、制作を開始しました。まずは開発者からの説明を受け、開発中だったゲームを実際にプレイして、デザインコンセプトを練り上げていきました。今作の特徴は、不思議な世界を冒険するという「ワンダー」の要素と、シリーズ伝統の横スクロールゲームの魅力が融合している点です。この二つの要素をいかにパッケージデザインで表現するかが大きな課題でした。
私がデザインの仕事をするうえで常に大切にしているのは、商品の魅力を最大限に引き出すことです。そのために、あらゆる可能性を探りながら、たくさんのデザイン案を試作しました。例えば、今作で初登場の「ゾウマリオ」を中心に据えて、新作としての新鮮さを強調する案。あるいは、横スクロールの伝統的なマリオの世界と、ワンダーらしい奇想天外な世界を画面で二分割して表現する案など、実際にデザインしながらさまざまな方向性を検討しました。
最終的に採用されたデザインでは、「ワンダーフラワー」を持ったマリオを右向きに配置することで、横スクロールアクションというゲーム性を表現しました。また背景には、連なるトッシンや曲がった土管など、ワンダー特有の要素を配置し、不思議な世界観が伝わるようなデザインをしました。さらに、シンプルな背景にマリオを飛び出させることで、不思議な世界を冒険するというイメージが目立つような表現にしています。
発売日を迎えお店に足を運んだとき、パッケージを手に取ったり、試遊台でソフトを楽しんだりしているお客様を目のあたりにしました。グラフィックデザイナーとしてひとつの達成感を得られたひとときでした。