2. 右脳的・左脳的なアプローチの違い

わたしは今回、
任天堂さんといっしょにお仕事をするなかで
ひとつ感じたことがありまして、
Googleのエンジニアは優秀だとほめていただくことが多いのですが、
エンターテインメントの発想に関しては
実は不得意だったりするんです。

岩田

そこはやっぱり、アプローチの方法が
日常から異なるからなんでしょうね。
Googleのエンジニアの方たちは
実用的にいつも人の役に立つ方向を考えられていて、
一方、任天堂の開発者が考えているのは
明らかに実用的なものではない、娯楽の分野ですから。
わたしたちは、人に驚いてもらったり、
喜んでもらったりすることばかり考えていますからね。

両者の観点が異なるんですね。
これはわたしの個人的な解釈なんですけども、
Googleはどちらかというと、左脳で考えていて、
任天堂さんは右脳で考えているんじゃないかと。

岩田

Googleさんはどちらかというと論理的思考で考えて、
任天堂は芸術的創造性で考える傾向にあるということですか(笑)。

はい。
われわれが日常的に取り組んでいることによって、幸いにも
ユーザーが検索窓に打ち込んだデータが大量に集まってきます。
もちろんプライバシーに関したもの以外の情報になりますけど。

岩田

世界中から膨大なデータを集められても、
個人とは結びつかないかたちにされているんですよね。

そうです。なので、どのような決定を下すときも
そういった大量のデータをベースに、
ロジカルに決めていくことができます。
たとえば以前からやっていることですが、
Googleのアカウントを持っている人が
ログインしている状態で検索すると、
そのユーザーが誰かはわからないですけど、
その人はどんなキーワードを検索して、
どの広告をクリックした、もしくはしなかったということを
検索エンジンのほうで覚えていて、
次に検索したとき、検索結果が変わるようになっているんです。

岩田

つまり、検索する人が誰であるかは特定できないけど、
その人の好みに応じた検索結果を示すことができるんですね。

はい。ですから、このユーザーはこの広告に興味がないから
表示しないようにしたりとか、
逆にこの広告に興味があるから、もっと出すとか、
そういったことをロジカルに決めていくのが
Googleのやり方なんです。
でも、任天堂さんのやり方はそうじゃなくて、
お客さんたちがなんとなく望んでいるものを、
言い当てるようなところがありますよね?

岩田

ええ。わたしたちの仕事は、ある意味
お客さんに驚いてもらうことだと言えるんですけど、
だからと言って「あなたは何をしたら驚きますか?」と
お客さんに聞くことができないんですね。
「こういうものが欲しい」、「こういうものがあったら驚くぞ」と
お客さんが、事前にわかっておられるわけではないからです。
ですから、お客さんも気づかれていないような
潜在的な欲求をわたしたちが見つけ出して
「そうそう、こういうので遊んでみたかったんだ」と
言っていただける商品をつくらないといけないという点で、
わたしたちの仕事はちょっと特殊なんです。
お客さんに直接聞いても答えはわかりませんから。

わからないですよね。

岩田

それに、マリオがピョンピョン跳ねるようなことでも、
どのように跳ねたら気持ちがいいのか、
論理的にはなかなか解けないんです。

解けないですね。
ユーザーリサーチをしても、たぶん答えは出てこないですよね。
そこに任天堂さんと弊社の大きな違いがあると思います。
だから、今回の『安藤ケンサク』は、
それぞれのいいところを組み合わせて
それぞれの足りないところを埋めながら生まれた、
ひとつの実験ソフトだと思うんですね。

岩田

本当にそうですね。
ところで韓さんは、実際に『安藤ケンサク』を触ってみて、
どんな印象を持たれましたか?

これは個人的な感想になりますけど
ひとことで言うと・・・とても感動しました。

岩田

それはどの部分にですか?

たとえば、都市として東京と大阪を比べたとき、
東京が中心だと考えるのが自然じゃないですか。

岩田

はい。東京は日本の首都ですし、
人口も含めて、圧倒的に大きな都市ですから。

ですから、ふつうに検索をすると
「東京」のほうが圧倒的にヒット件数が多くなります。
ところが、条件を変えて、フレーズ検索(※4)をしてみると、
逆の結果になることがあるんです。

岩田

フレーズ検索というのは
「“”(ダブルクォーテーション)」で言葉を囲って
検索する方法ですね。

※4

フレーズ検索=たとえば「安藤ケンサク」をGoogle検索すると、「安藤」と「ケンサク」を別個の単語として、その語を含むページも検索されてしまう。そこで、「“安藤ケンサク”」のように囲んで入力すれば、ひとつのフレーズとして検索することができる。

はい。たとえば「“東京名物”」と「“大阪名物”」では
「“大阪名物”」のヒット数が多くなるんです。
それをゲームにしているのがすごく面白いなあと思いました。
検索エンジンは誰でも使えるものですが、
調べもの以外にも、その使い方次第で
世の中の動きや状況など、新たな側面が見えてくるんです。
「東京」と「大阪」の比較はひとつの例ですけど、
『安藤ケンサク』で、新しい見え方ができるようになるということが、
本当によくわかりました。

岩田

わたしたちが日常的にさりげなく使っている検索エンジンも、
見方を変えると、意外なことがいっぱいあって、
その意外とも思えることには必ず理由がありますよね。
それを、「きっとこうなんだからこうなんだろう」と予想したり、
複数の人で当てっこをして、
すごく意外な結果を他人が上手に言い当てたりするのを見ると、
ものすごく違う面白さにもつながるんですね。
ですから今回の『安藤ケンサク』は遊べば遊ぶほど
人の考えや行動がわかってきたり、雑学が身についたりするなど
これまでにないユニークなソフトになったと思います。

そうですね。
個人的にもぜひ遊んでみたいと思っています。
もちろんWiiも持っておりますので(笑)。

岩田

(笑)

ただ、正直に申し上げますと、
社内でスタッフを動員してやったことが、
本当に正しかったかどうか、正直に言うと不安でした。
ところが、完成したソフトを実際に触ってみると、
それが正しかったと、胸を張って、
社内で言えるようになるのかなと思っています。
 
それと『安藤ケンサク』というタイトルに決まったと
聞いたときは正直ビックリしました。
「ひょっとして、開発チームに安藤さんがいるんですか?」と、
スタッフの方に聞いたんですけど、そうじゃないんですね。

岩田

「AND検索」(※5)からついた
「安藤ケンサク」というキャラクターがこのゲームには登場するので、
商品の内容を端的に表現し、かつ、親しみがあり
お客さんに愛される名前として、この名前にしたんですけど、
今回のネーミングは、けっこう難産だったんです。
究極に言うと、ビデオゲームというのは、
生きていく上で必要不可欠ではないものですから、
どんなによくできた商品であっても
お客さんに知っていただけないと
消えていくことも少なくないんですね。
それだけはどうしても避けたいと考えたんです。

※5

AND検索=「京都 天気」のように、複数の単語を入力して(単語の間はスペースを空ける)、検索対象を絞り込む方法。

なるほど。
よろしければもうひとつ質問したいんですけど。

岩田

はい。

新しい商品の名前をつけようとするとき、
ユーザーの反応の調査をするようなステップは踏むんでしょうか?

岩田

ネーミングの調査をすることもないわけではないんですが・・・。
たとえばWiiの場合、開発コード名は「レボリューション」だったのですが、
もし正式名称を決めるときに、わたしたちが10個の候補名を出して
「このなかから正式名称を選んでください」と、
一般の方にお願いしたとします。
そのときにWiiという名称が紛れ込んでいたとしても、
あの当時、Wiiを選んだ人はほとんどいないと思うんです。

確かにそうでしょうね。

岩田

でも、わたしたちはWiiに決めて、
その結果、世の中のたくさんの人たちに受け入れていただき、
いまとなってはWii以外の名前は考えられないわけです。

そうですね。

岩田

ネーミングにはそういうところがありますので、
それはある意味、Googleさんのアプローチからすると、
ちょっと奇妙なところもあるかも知れませんが(笑)。

そこは先ほど言った、両社の違いですよね。

岩田

アプローチの違いなんでしょうかね。

そう思います。