1. 検索のヒット数とビンゴを組み合わせて

岩田

第二部は『安藤ケンサク』を開発した人たちから
話を訊くということで、シフト(※1)さんのお2人と、
任天堂のソフト担当者に来てもらいました。
 
まず、それぞれ自己紹介からお願いします。

※1

シフト=1999年に設立され、アクションパズルゲームなどを開発してきた。任天堂プラットフォームでソフト開発をするのは、今回の『安藤ケンサク』が初めて。本社は神奈川県藤沢市。

征矢

メインの企画を担当しましたシフトの征矢(そや)です。
今回は、最初の企画立案から関わりました。

岩田

最初に企画立案したのは、どのくらい前なんですか?

征矢

およそ3年前の2007年の2月です。
忘れもしないんですけど、
夜中に街中を歩いていたら、角を曲がったところで
アイデアがフッと降りてきたんです。

岩田

このゲームのアイデアを思いついた瞬間を、
ハッキリ覚えておられるんですか?

征矢

はい。ふつうに道を歩いていたら、
アイデアが降りてくるような話はけっこう聞きますよね。
でも自分はいままでそんな経験をしたことがなかったので
これは覚えておいたほうがいいなと思ったんです。

岩田

なるほど(笑)。
詳しい話は後ほどお訊きすることにして、
油井(ゆい)さん、お願いします。

油井

メインプログラムをつとめましたシフトの油井と申します。
いま征矢が言った話の続きになるのですが、
最初に「検索エンジンのヒット数だけを比べる」という
アイデアを聞いたとき、正直なところ、
あまり面白そうだとは思わなかったんですが、
彼の上司から「これをビンゴにしたら面白くなるんじゃないか」
という話が出て、「それなら」と思いまして、
そこから試作に入っていきました。

岩田

では、任天堂の西村さん、自己紹介をお願いします。

西村

企画開発部の西村です。
このプロジェクトの、肩書きはプロデューサーですが、
実際の仕事は、コーディネーションだったり、
ときにはプランニングだったりと、
ゲーム全般にわたってサポートをしました。

岩田

西村さんはこの2年半くらい、
任天堂ゲームセミナー(※2)の事務局長という役割で
校長先生も担当していましたけど、
それよりも長い開発期間になったんですよね。

西村

はい。2回、卒業生を送り出してしまうくらい、
結果として、とても長いプロジェクトになりました。

※2

任天堂ゲームセミナー=学生を対象に、ゲーム制作が体験できる任天堂主催のセミナー。

岩田

それでは、征矢さんに降りてきたという
アイデアの話から訊くことにしましょう。
そのとき、征矢さんの頭のなかにあったイメージは
「検索ヒット数を比べる」という部分だけだったのですか?
それとも何か別のアイデアもセットになっていたんですか?

征矢

それはセットでした。
いちばん最初に考えていたイメージは
リアルタイムストラテジー(※3)風のゲームだったんです。
画面のいちばん下に検索窓があって、
そこに言葉を打ち込むとその言葉がユニットになり、
それが敵とぶつかると、
検索のヒット数の大きさで攻撃することができて、
敵を倒すことができると。
ところが、上司にその話をしたところ
「検索を使うところは面白いけど、その他はあんまり面白くない」
と言われてしまったんです。

岩田

そのアイデアは半分OKだけど、
半分はダメだと言われたんですね。

※3

リアルタイムストラテジー=ターン制ではなく、リアルタイムに敵との戦闘などが進行するシミュレーションゲームのこと。

征矢

はい。そこで検索のヒット数を使うアイデアを元に、
別の方向にアイデアを広げていくことにしました。
先ほど油井が言ったように
ビンゴと組み合わせることにして、
とりあえず試作をつくってみることにしたんです。

岩田

その試作はいつ頃できたんですか?

征矢

2007年の6月です。

岩田

アイデアが閃いてから、4ヵ月くらい後ですね。
西村さんがいちばん最初にこの企画の話を聞いたのは、
その試作とともに持ち込まれたときなんですか?
それとも、その前に企画の段階でのやりとりがあったんですか?

西村

事前のやりとりはなく、まず最初に
パソコンでの試作プログラムを見せていただいたのですが、
すでに4人対戦プレイができる状態で
実際に4人でやってみると、とても面白かったんです。

征矢

試作の段階では「パネル9(ナイン)」と呼んでいる
ゲームだけが入っていました。

岩田

3×3のビンゴ状のゲームですね。

征矢

はい。まず9つのマス目にキーワードが並んでいて、
表示された別の言葉と組み合わせることで
→AND検索(※4)のヒット数が
最も多い組み合わせを競うゲーム
だったんですけど、
当時は、それ1本で行ければいいと思っていたくらい、
内輪でやってもすごく盛り上がりました。

岩田

試作の段階でも、
人が集まって遊ぶと面白かったんですね。

※4

AND検索=「京都 天気」のように、複数の単語を入力して(単語の間はスペースを空ける)、検索対象を絞り込む方法。

西村

そうです。
相手が組み合わせの言葉を選ぼうとするときに、
「あーそれはやめて!」とか「いや、こっちのほうがいいよ」とか、
コミュニケーションができて、対戦ゲームとして
間違いなく面白いものになっていました。
そして、正式に開発をスタートさせることになったんですけど、
しばらくたってから、わたしの上司から
「ひとりで遊ぶときはどうなの?」と指摘されたんです。

岩田

多人数で遊ぶと面白いけど、ひとりで遊ぶと
何か物足りなさがあるんじゃないかということですか?

西村

そうです。ひとりで遊ぶと
物足りないような感じがしますし、
多人数で遊んでも、どんなメンバーで遊ぶかによって
面白さが変わってくるところもありました。
また、1本のパッケージとして発売するのに
十分なボリュームが出せるのかなど、
課題があるなと感じました。

岩田

そのような課題が見つかってから、
次にどんなことをしたんですか?

征矢

任天堂さんから
「モードを10個くらい増やしてほしい」ということで、
遊べるモードを考えることにしました。
やっぱり「パネル9」だけでは足りないと思ったんですね。

西村

「パネル9」はパーティゲームとして遊んで
面白いのは間違いありませんでした。
それに特化するという手もあったんですけど、
それよりも、『マリオパーティ』(※5)のように
いくつかの種類のゲームモードを用意して、
ひとり用ならこれ、2人用ならこれ、4人集まればこれ、
というかたちで、お客さんが遊び方を選択できるような
商品にしたほうがいいんじゃないかと思い
「ほかにもアイデアはありませんか?」と、
シフトさんに相談しました。

※5

『マリオパーティ』=1998年12月にNINTENDO64用ソフトとして発売されたパーティゲーム。携帯ゲーム機を含めると、これまでに10作のシリーズが登場している。

征矢

そこで、2007年の夏場は
ネタをどんどん出す仕事に集中していまして、
「これは」というものから実験をはじめたんです。

岩田

実験してみるとどうでしたか?
最初から思ったように面白くなりましたか?

征矢

なりませんでした(キッパリ)。

岩田

(笑)

征矢

企画書の上では「これは絶対に面白い!」
と思うんですが、実際に試作してみると
検索のヒット数を使うというところに影響されて、
ぜんぜんゲームにならなかったんです。

岩田

それは検索したときのヒット数が
少ないと数百件だし、多いと何百万件という
ダイナミックレンジがとても広すぎるということですか?

征矢

そうなんです。
しかも、自分の思い通りにはならないんです。
たとえばRPGをつくるとき、
敵のパラメータは作り手の思い通りに設定できますけど、
今回のゲームはGoogleさんのヒット件数を使うわけですから、
自分たちの都合で勝手にデータを変えることができませんよね。
それに、キーワードの組み合わせの数も
半端じゃなかったんです。

岩田

そこでまた、思いもよらないことが起こってしまうんですね。

征矢

はい。わたしたちの想像力の限界を遙かに超えていて、
実際につくってみてから
初めてわかったことがたくさんありました。