5. 「落ちるんじゃないか」

岩田

こういうミニゲーム集はテンポが大事だと思うんですが、
みなさんはテンポについては、悩まずに進められましたか?

野中

テンポについては、仁井谷さんの
「ボールとシーソー」は苦労しましたね。

仁井谷

はい。全部通しのステージにするか、
個別のステージにするかで、けっこう悩みました。
最終的には、「ひとつのステージを何度もやり直したい」
という意見を優先して
ひとつずつで区切ることにしたんですが、
テンポだけを優先するなら
全ステージがひとつづきでもよかったんですけれど。

岩田

ワンテンポの間がくるうと快適じゃなくなるから、
長く遊んでいられないんですよね。

野中

ゲームができてきた2〜3月ぐらいから、
「間が悪い」とか「チュートリアルが長い」とか
テンポの悪い点が浮き彫りになってきたんです。
各々のゲームの評価に関しても、
「メダルが出るタイミングを合わせたほうがいい」とか、
「シーケンスのつなぎ部分を調整しよう」とか、
「チュートリアルはくどすぎないほうがいい」とか、
そういったゲームのテンポを重要視しました。

岩田

正直、まとまらないんじゃないか、って
感じたことはありませんでしたか?

大島

・・・思いました。
失礼ですが、みなさんのゲームの進行具合を見ても、
なかなか進んでいるようには見えなくて。
「このままだとなくなるよ!」と野中さんに言われて、
もう必死でついていこうと思いまして、
途中からはみなさんのゲームを見ないで、
「自分たちだけでも生き残ろう!」みたいな感じでした(笑)。

岩田

よそのゲームが見えるということは、
参考にもなるけれど、迷いにもなりますからね。

野中

今回はゲームができあがってから
決めていくスタンスでしたから、
ゲームの並び順やタイトル数に関しては
とくに各社さんには伝えてはいなかったんですよ。
だから12本から14本くらい・・・
8本の可能性もあるかなと。
すみませんね、そんないまさらの話で・・・(笑)。

正直、僕らもずっと
「落ちるんじゃないか・・・」と思っていました。
うちは任天堂さんからのスケジュールどおり、
1月末くらいにはほぼ完成しているんだけれど、
ふと見たら、ほかの会社さんがぜんぜんできていない・・・。
じつは「どうなんだ?」ってすごく心配していたんです。

岩田

1月ごろ、とくに心配に見えたものはなんですか?

「モグラたたき」と「石投げ水切り」が心配でした(笑)。
正直「落ちるんじゃないか」って思っていました。
「モグラたたき」にいたっては、1月末の時点で
まったくたたけていなかったですからね(笑)。

岩田

スタートも遅かったですしね。

ただ、あるとき、
うちの「360°シューティング」は
「落ちないかも」と思った瞬間があったんです。
じつは弊社から任天堂さんに、全体のゲームに
「ヨコ串を通すような企画を何かしたい」
とご提案したんです。
そしたら後日、野中さんから
「UFOを全ゲームに出すので、モデルをください」
というお話が来たんですね。
それで「ん? モデルを渡すということは、
うちは落ちなくなったのか・・・な?」
という感じでした(笑)。

岩田

ああ、全ゲームに「360°シューティング」の
UFOが出てくるんですか?

野中

そうです。
ほかのゲームにも必ずどこかに
UFOが出てくるんですよ。

岩田

谷口さんも、やはり不安がありましたか?

谷口

はい、ずっとありました。
「傘ライダー」は比較的、
評判がいいとうかがっていたんですが、
あるとき、はじめに認識していたよりも
総タイトル数が減っていることに気づきまして、
「うちはだいじょうぶだろうか・・・」と(笑)。

ありましたね。
「あれ!? このゲーム、なくなってる!」という瞬間が。

岩田

全体像がなかなか見えないですからね。

谷口

はい。それぞれのゲームの立ち位置もわからなかったので。
でも、最終的にいい感じにまとまりましたので、
よかったなあ〜と思っています。

岩田

江藤さんはいかがでした?

江藤

僕もとにかく、まとまるかがいちばん心配でしたね。
本当に個性あふれるゲームが集まっているので、
「ただひとつのパッケージにまとめただけでは
ちぐはぐな感じになるのではないか?」
という心配がありました。
でもマスターロムをさわると、まるでひとつの会社が
つくったみたいにまとまり感があるんです。

岩田

仁井谷さんもやはり不安でしたか?

仁井谷

全体を見る側としてですが、
もう、はじめから不安でいっぱいでした(笑)。
まず制作期間の話を聞いて、間に合うのかと心配になり、
たくさんの会社さんが関わると聞いて、
まとまるのかと心配になり、
個性的な試作がたくさんそろったとき、
どうやってひとつのパッケージにまとめるのかと心配になり、
1月ごろは、締め切りに間に合うのかと心配になり・・・(笑)。
ようやく安心できたのは3月ぐらいでした。

岩田

ゲームづくりははじめての体験だったんですか?

仁井谷

はい。試作からカタチになっていく過程は
はじめて経験しましたので、
とにかく「野中さんを信じてついていくぞ」
って感じでした(笑)。

野中

たおれるときは、いっしょにたおれるけど(笑)。

岩田

いま振り返ってみて、
結果的にひとつにまとめたものは何だったと思いますか?
船木さんはいかがですか?

船木

僕が「いけるぞ」と思った瞬間は、
→メニュー画面にあるタイトルがキューブ形に
並んでいたものが、いまの扇形に変わったときなんです。
そのときはじめて「まとまってきたな」と実感しました。

野中

あれは岩田さんのひとことで変更したんですよね。
「キューブの配列は仮なの?」って。
本制作したつもりだったんですけど・・・。

岩田

違う価値観の人が大勢集まって仕事をしたとき、
だれかの何気ないひとことや、
ほかの人が見せたアウトプットが
いろいろな人に響いて別のところが変わる、
という連鎖反応はありますよね。

大島

確かに、「1社で仕事をするよりも、
よりいいものにしなきゃいけない」
というプレッシャーはすごくありました。

岩田

見られている目が多いからですかね。
だから独特の仕上がりになったと感じています。
とくに終盤、お互いのゲームを見ながら、
自分の場所を決めてかたちを整えていき、
ピタッとはまるように変わっていった感じがしました。
溝邊さんはいかがでしたか?

溝邊

わたしは、キャラクターがMiiであることも
全体の統一感につながっていると感じています。
たとえば「360°シューティング」のオープニングで
かっこよくポーズを決めていたり、
「ゴーストマンション」でおばけの位置を
教えてくれるのが自分の家族や友だちだったりして、
「みなさんで楽しんでください」という雰囲気が出ているので。

岩田

なるほど。蛭子さんはいかがでした?

蛭子

弊社はサウンドを自社でつくりましたが、
任天堂さんがサウンドを統一することに
かなり力を注がれているのを感じました。
「サウンドの鳴らし方やリズム感などの調整が、
全体のテンポにつながっていくんだな」と思いました。

岩田

高橋さんは、まとまり感が出たことについて、
最初から強い勝算があったんですか?

高橋

まあ・・・勝算があるからはじめたんですが(苦笑)、
でも『はじめてのWii』を見ても、
それほど統一感はないんですよね。

岩田

うん、確かにバラバラですね。
じつは『はじめてのWii』は、Wii開発初期に要素実験で
つくったソフトをそのままお蔵入りにするのはもったいない、
という宮本さんからの提案で生まれたものなんです。
こういうやり方でソフトを売った例は過去になかったんですが、
宮本さんはそこに可能性があることを見つけていたんですね。
つまり、パッケージングの発明で売ったソフトなんです。

高橋

ゲーム自体に統一感があるわけではなかったので、
今回も、それぞれのチームの個性を活かして
“何か光るもの”があればよかったんです。

岩田

求めていたのは、
各ソフトが“光るものを持っていること”なんですね。

高橋

はい、それが入ってきたので、
あとはサウンドやユーザーインターフェイスなどで調整すれば
まとまるはず、と思っていました。なので、
今年に入って全体がグッとクオリティが上がったのは必然なんです。
じつは、思っていたよりも早めにできたぐらいなんですよ(笑)。
だからわたしとしては、ある程度満足のいく結果になりました。