2. 「迷いにくい森」にするために

岩田

森という最初のフィールドをつくるにあたって、
ファンタジックな雰囲気を出したり、
いろんな生き物を住まわせたりする以外に、
どんなことを考えてつくりましたか?

平向

これまでのシリーズよりも、
ちょっと立体的な地形にするようにしました。
初めて来たときは、道すじをたどるだけでもいいのですが、
探索しているうちに、いろんなところに行けるようになったり、
行きたいところへすぐに向かえるようになる形状にしました。
というのも、訪れるのは一度だけでなく、
何度か行き来することになりますので・・・。

岩田

何度も遊べるようにするには、
一本道の地形はすごく不向きなんですよね。

平向

そうなんです。シンプルな地形だと、
「今日はこっちから行ってみようか?」とかできませんし、
行きやすいところと、そうでないところができてしまうんです。

岩田

でも、だからといって
最初のフィールドの地形を立体的にしてしまうと、
遊んでいる人は迷ってしまいますよね。
伊藤さん、平向さんがつくった地形を見て、
どう思いましたか?

伊藤

実際にプレイしてみると、
確かに地形は立体的で複雑なんです。
でも、「ダウジング」という機能があって、
それを使うことによって
次にどの方向に進んでいけばいいのかを案内してくれるんです。

藤林

大地に降りたリンクは、ゼルダを捜すわけですが、
→「こっちのほう」と、
アバウトな方向を示してくれる
んです。

岩田

その「ダウジング」という機能は、
わりと最初の段階からできていたんですか?

藤林

そうです。
今回の『ゼルダ』をつくるにあたっては、
“発見と探索”という、ひとつのテーマがあったんです。
そこで、いちばん最初に考えたのは
L字型の針金のようなもので・・・。

岩田

地下水や鉱脈などを探すときに使われていた道具ですね?

藤林

まさにそのことを「ダウジング」というんですけど、
それを「Wiiリモコンプラスなら楽しくやれるんじゃないか」と
考えたのがはじまりでした。
で、『ゼルダ』をつくるうえで
気をつけないといけないことがいくつかあるんですが、
やっぱり3Dになると、迷いやすいんです。
「あそこに行きなさい」と言われても歩いてるうちに・・・。

岩田

「あそこってどっちだっけ?」と(笑)。

藤林

そうなんです(笑)。
これまでだと、迷いにくいように
遠くからでもわかる「目印」を用意したり、
そこに導くようにと、いろいろ工夫しなくちゃいけないんですが、
「ダウジング」があればそれをしなくていいんです。
 
あと、もうひとつ、
迷わないようにするための方法があって、
それは「のろし」というものなんです。

岩田

それは、木を燃やして煙をあげる、
あの「のろし」ですか?

藤林

実際に木を燃やすわけではないんですけど(笑)。
たとえば、「ダウジング」をしたときに、
「こっちのほうだ」とはわかっても、
かんたんにたどりつけなかったりするんです。

平向

地形がちょっと立体的なので、まっすぐ向かっても、
目の前に壁が立ちはだかっていたりして・・・。

藤林

でも、そこでマップを呼び出すと、
「この壁の向こうが怪しそうだ」というのがわかるので、
そこをポイントすると、
フィールド上に「のろし」があがるんです。

岩田

自分で、目的の場所に
目印を付けることができるんですね。

藤林

はい。でも「のろし」とは言っても、
→天空に向かって、青い光の柱が立つんですけど、
離れた場所からも見ることができるんですね。

岩田

それで迷うことなく
目的の場所にたどりつけるんですね。

平向

はい。その「のろし」と
さっきの「ダウジング」の合わせ技で、
今回は「迷いの森」ではなく
「迷いにくい森」になったんじゃないかと思います。

岩田

なるほど(笑)。
その青い光の柱が立つ「のろし」をつくったのは、
エフェクト担当の伊藤さんですね。
今作全般についてお訊きしますけど、
エフェクトの処理をするにあたって
どんなことに気をつけましたか?

伊藤

今回はいままでとは違って、
絵柄がわりと水彩画調というか・・・。

岩田

そうなんですね。新しいタッチなので、
「このタッチにどういうエフェクトが馴染むの?」
というのは、じつはすごく大きな
チャレンジだったはずなんですけど。

伊藤

そうですね。たとえば『風のタクト』のときは
セルアニメ調でしたので、
エフェクトも似たような印象にしました。
『トワイライトプリンセス』になってからは、
180度変わって、リアルな感じにと。
今回の『スカイウォードソード』は
リアルなものとも違う印象になっていて、
最初は「どうしようかな?」と、ちょっと悩んだりしました。

岩田

最初からすんなりいかなかったんですね。

伊藤

はい。で、じっくり見てみると、
背景はわりと水彩画調な雰囲気なんですけど、
そこで動くキャラクターたちは、
キャラを立たせるために、多少タッチが変わっているんです。
そこで2010年のE3(※6)のときは、
リアルになりすぎないように気をつけながら、
背景とキャラ、どちらのタッチに乗せても違和感がなく馴染むように、
あえて特徴のない絵づくりをして出展してみたんです。
ところがE3のあとに、
NOA(Nintendo of America)の担当者が
「エフェクトに特徴がなくて、なんだか物足りないです」
という話をしていたと、青沼さんから聞いて・・・。
そこで思い切って手直しすることにして、
煙の表現ひとつにしても、
つくっては捨て、つくっては捨てを繰り返し、
馴染みはするけれども、特徴のある絵づくりも目指して
いろんな表現を試したりしました。
しかも今回の剣は・・・。

岩田

自由自在に振ることができますからね。

伊藤

ですから、どんな方向から斬ったのか、
その軌跡がきちんと見えるようにしようと
何度も実験をしました。
その結果、剣を振ったときの手ごたえは
すごく感じられるようになったと思います。

岩田

水彩画調な雰囲気とマッチしたエフェクトで
とても迫力のある剣戦闘を表現できるようになったんですね。

伊藤

はい。どうしてもお客さんは
キャラクターや風景に目がいってしまうと思うんですけど、
ぜひそういう部分にも注目していただきたいですね。

※6

2010年のE3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。2010年のE3では、来場者は『スカイウォードソード』を初めて体験することができた。