4. “勝手知ったる場所”で鬼ごっこ

岩田

今回の『スカイウォードソード』について
話を訊けば訊くほど、
“濃密”という感覚が強まってくるんですけど、
そのとびきりの“濃密感”が生まれたのは、
伊藤さん、どうしてだと思いますか?

伊藤

そうですね・・・。

岩田

制作規模が大きいからなのか、
開発期間が長かったからなのか・・・。

伊藤

(笑)

岩田

それともつくり方がそうだったのか・・・。

伊藤

僕が思うに、同じフィールドに何度もやってきて、
しかも、いつも新鮮な気持ちで遊べることが
その“濃密感”につながっているんじゃないかと。
いままでのシリーズでは、一度ダンジョンを訪れると、
もうそれで終わりでしたよね。

岩田

そうですね。
どんなに大仕掛けにつくられているダンジョンであっても、
奥にいるボスを倒してしまえば
そこへはもう二度と行くことがないみたいな。

伊藤

はい。
でも今回の『ゼルダ』は、一度攻略をしたダンジョンでも、
もう一度訪れる必要があったりもします。
すでに攻略した場所だから
「かんたんに先に進めるかな」と思いきや、
また新しい仕掛けがあったりするんです。
 
そのような感じで、同じ場所に
何回も何回も訪れることが
とても楽しめるつくりになっていて、
しかもご褒美がしっかりちりばめられている、
ということが、“濃密感”を生んでいるんじゃないかと思います。
たとえば「サイレン」という新しい遊びもありますし。

岩田

ああ、そうでしたね。
「サイレン」については、
藤林さんから説明していただけますか?

藤林

はい。
今回は「ダッシュ」ができるようになりましたので・・・。

岩田

前回も話に出ましたけど、
Aボタンが空いたから実現したアクションですね。

藤林

そうです。すると、崖を駆け上ったりとか、
段差があるところに勢いよく飛びついて
ぶら下がることができたりとか、
リンクのアクションがとても豊かになりました。
そこで、そのダッシュを使って
何か新しい遊びはできないだろうかということで、
「鬼ごっこ」のようなゲームを考えたんです。

岩田

「サイレン」は、
鬼ごっこみたいなものと考えればいいんですか?

藤林

そうなんです。だから、その場所では
剣や盾などのアイテムは
いっさい使うことができないんです。

岩田

勇者リンクは丸腰リンクになると。

藤林

はい。このゲームの目的は、
→フィールドのあちこちに点在する
光る滴(しずく)を集める
ことなんです。
ただ、敵に見つかってしまうと、世界が一変して
すごい勢いでリンクは追いかけ回されます。
こちらは丸腰リンクなので、敵とは戦えず、
攻撃を受けると、それでおしまいです。

岩田

まさに「鬼ごっこ」なんですね。
そこで、ダッシュが活きると。

藤林

そうです。
→「敵に見つからないように」「見つかったら捕まらないように」
という静と動がリアルタイムに切り替わる遊び
がやりたかったんです。
一度光る滴を取ると、しばらくは安全な時間がもらえるので、
滴を取っていく順番を考えたり、万一、見つかったときのことを考えて、
わざと取りやすい光の滴を残しておいたりとか、駆け引き要素もあったり。
実際の鬼ごっこでもそうなんですが、
こういう遊びって地形を詳しく知っている人ほど、
有利だったりするじゃないですか。

岩田

なるほど、それで前に来たことのあるフィールドを使うということが
重要になるんですね。

藤林

はい。そのフィールドには来たことがありますから、
「敵が迫ってきても、こっちに逃げればいいんだ」とか、
「この坂は、駆け上がることができるぞ」みたいになって・・・。

岩田

“勝手知ったる場所”だから、
とても遊びやすい。

藤林

そうなんです。
それに、通常の冒険で行き来していると、
「あの怪しい岩だなの上に
何かが置いてあるんじゃないかな」
と感じる場所があったりするんです。

足助

で、「サイレン」で遊ぶときに
そんな怪しい場所をチェックすると、
「やっぱり探している光る滴があった!」って(笑)。
そんなとき、すごくうれしいんですね。

伊藤

それで改めて地形をちゃんと覚えようとしたりして。
「サイレン」を遊ぶことで地形が頭に入るんです(笑)。

岩田

“勝手知ったる場所”度がどんどん増すんですね。

平向

そうなんです。
あと、“濃密”の話の流れでいうと、
じつはダンジョンとフィールドのつながりを
今回はあえてあいまいにしました。

岩田

あいまいにした、というのは?

平向

これまでの『ゼルダ』シリーズだと、
フィールドでは大らかな遊びがあって、
ダンジョンに入ると、新しいアイテムを手に入れて、
それで攻略や謎解きをする、みたいに
ハッキリ分かれていたと思うんです。
でも、今回はフィールドでも
新しいアイテムを手に入れたりして、
探索が拡がるようにしました。

岩田

フィールドでも謎解きが楽しめるんですね。

平向

そうです。それも“濃密”さに
つながっていると思います。

岩田

過去の『ゼルダ』のように
フィールドとダンジョンの境界をハッキリと分けるんじゃなくて、
あえてあいまいにしたのは、どうしてなんですか?

藤林

たとえばいままでだと、ひとつのダンジョンに入ると
まず新しいアイテムの使い方を覚えて、
そのあとで「解けますか?」という謎解きがあって、
つまり“出題と解答”が続くんですね。
僕たちは“ゼルダ作法”と呼んでるんですけど。

岩田

はい。

藤林

で、今回はアイテムにも
たくさん新しい要素が入っていますので、
短い尺にそれを詰め込んでしまうと、
すごくバタバタしてしまうというか・・・。

岩田

忙しいゲームになるんですね。

藤林

そうです。なので、たとえば森であれば、
フィールドのなかで、パチンコを手に入れることができ、
その使い方を覚えたあとに、ダンジョンに入って
応用していくというかたちにしました。

岩田

なるほど。

藤林

ただ、その一方で、
ダンジョンへの入り方にはすごくこだわりました。
初代『ゼルダ』では、
→ザッザッザッザッと音をたてながら
リンクがダンジョンに入っていく
んですが。

岩田

はいはい。

藤林

僕はどうしてもあれを再現したかったんです(笑)。

岩田

(笑)

藤林

もちろんディスクシステムの演出を
そのまま再現することはできないんですけど、
今回はあれに近い演出は再現できたかなと思います。
詳しくは、後の「社長が訊く」に
それをつくってくれたスタッフが参加する予定ですので、
そのときにでもお話しできればと。

岩田

はい(笑)。