3. 正真正銘の『ゼルダの伝説』に

岩田

ちなみにシネマシーンは
どのくらいの量をつくったんですか?

デモ数は79個とかでしたっけ・・・?

吉田

はい。

藤林

総計は120分以上です。

岩田

えっ!? 120分ですか? 
映画1本分じゃないですか!

藤林

はい。ただ時間というより、
デモの本数で数えるようにしていたんですけど、
前回の『トワイライトプリンセス』(※3)などを基準にして、
その数に合わせてつくることにしていました。
で、自分が今回の『ゼルダ』で伝えたいシーンを
全部セリフまで書いて、数えてみると・・・
予想よりもかなり多かったんです。

※3

『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

岩田

映像を使って伝えたいことが、
藤林さんのなかに、けっこうあったんですね。

藤林

はい。デモの映像には数字をふって整理するんですが、
たとえば30番だと、それに1、2、3というように、
3つくらい入れるようにして・・・。

岩田

30番の1、2、3・・・ですか?
それって、30番だけじゃないじゃないですか(笑)。

青沼

ごまかしてるんだよなぁ(笑)。

一同

(笑)

藤林

いえ、でも、全部で、79個なんです(笑)。

岩田

だって、30番には1、2、3があるのに、
それを含まないで、79個なんでしょう?(笑)

藤林

いや、なので、そこはちゃんと相談しました。
「共通で使えるシーンなので、大丈夫ですよね?」と。
すると、「わあ、多い!」と言われると思ったら、
「まあ、これくらいなら・・・」みたいなことを
吉田さんから言われた覚えがありますし・・・。

吉田

そうですね。
でもやっぱり、そのときもツッコミましたよ。
「これ、3つでひとつなんですか?」と(笑)。

確かにシネマシーンは何回もつっこんでましたよね。
「これ、ひとつじゃないよなぁ」とか言って・・・。

藤林

まあまあ(笑)。
でも、舞台セットはあるものを使えますし、
そうやって上手に使えば大丈夫だと思ったんです。
で、シネマシーンがたくさんできあがって、
ゲームに実装してから、青沼さんに見てもらったんです。
そのときの第一声が・・・「多いなー!」って(笑)。

岩田

あははは(笑)。

藤林

でも、僕が今回、
どうしても実現したかったシーンがあるんです。
序盤のシーンなんですけど、
ゼルダが「スカイロフト」から、
ロフトバードで飛んでいるリンクにむかって飛び降りて、
リンクが、それを空中であわてて受け止めるというシーンなんですが。

岩田

前回、スカイダイビング中に
空中で女性を助けた人の話をしていましたね。

藤林

はい。今回の「ゼルダ」という女の子の性格を
そのシーン一発で表現したかったんです。
明るくて活発で、感情がたかぶるとパッと体が動いてしまうような。
そのようなシネマシーンをつくったんですけど、
それを見た青沼さんに
「長い・・・長すぎる!」と言われたので
「いかん、このままではカットされてしまう」と。

岩田

青沼さんは何が不満だったんですか?

青沼

僕がそのときいちばん気になっていたのは、
序盤にシネマシーンが連続していたからで・・・。

岩田

プレイヤーにすると、
「早くゲームに触らせてよ!」
という気持ちになりますからね。

青沼

そうなんです。
早くゲームのなかに入っていきたいのに、
「こんなに映像で畳みかけられちゃうのはマズイよ」と。
それで、
「そもそも本当にゼルダが飛び降りるシーンが必要なの?」
と言ってしまったんです。

藤林

はい、言われました(笑)。

青沼

しかも、なんだかベタベタした
恋愛シーンみたいなところも気になって、
「『ゼルダ』でここまでやっちゃうの?」
みたいなことを伝えました。

岩田

なるほど(笑)。
でも、藤林さんは、そのシーンを
どうしてもやりたかったんですよね。

藤林

ベタベタ恋愛シーンは、僕ではないんですが、
その場では「ちょっと検討します」と言って
早々に退散して、ほかの部分を削りました。

青沼

だから、彼は最後までやり通したんです。

岩田

藤林さん、残してよかったですか?

藤林

いや、よかったと思っています。
僕はかなり気に入っています。

青沼

あの、僕も最終的には
残してよかったと思っているんです。

藤林

寄宿舎のネタにもつながってますしね。

青沼

そう。それに、プレイする人が
ゼルダをどうしても助けたいと思うようになることが、
すごく大事だと思いますから。

そうなんですよね。今回はいかにして
「この娘を助けたい・・・!」
と思ってもらえるようになるのか、
それはセリフを書くうえでも
すごく意識したことなんです。
リンクとゼルダが「幼なじみ」という設定もありましたので、
最初から仲がいいのは当然なので、
だからこそ、いままで以上に、リンクに対して
最初から好意を持っているゼルダにしようと考えました。

岩田

最初から“好意バクハツ”なんですか?(笑)

はい(笑)。
それに、今回もゼルダは
序盤でいなくなってしまうんですけど、
彼女をずっと捜していると、
何度かニアミスをして、
その都度、「助けたい!」という想いが
高まるようにこころがけました。

青沼

いままでのシリーズでは、
ゼルダは最初に出たあと、ずっと会えなくて
リンクのひとり旅になっていましたよね。
だから『リンクの伝説』とか言われてしまったり(笑)。

藤林

なので、今回は、ゼルダの姿が見えなくても、
リンクが冒険をしている裏では、
彼女はいまどこで、どんなことをしているのかを想定しつつ
シナリオを書きました。

岩田

ああ、それは新しいですね。
単に、「ゼルダがどこか遠くに行っちゃいました」
ではなくて、彼女の存在をいつも意識しながら
冒険することができるんですね。

藤林

そうです。
さっき森さんが言ったように
ニアミスもたくさんしますし。

青沼

しかも、今回のゼルダはお姫様じゃないですから・・・。

岩田

つまりゼルダ“姫”ではないんですね。

青沼

そうです。

岩田

最初からお姫様じゃないのは・・・。

『風のタクト』のテトラがいましたね。

青沼

でも、テトラは最初は海賊でしたけど、
最後にはちゃんとお姫様になりましたよね。
今回は、最初から最後までお姫様にならないんです。

岩田

へえー、それはシリーズで初めて・・・。

青沼

はい、初めてです。
なので、ゼルダはふつうの少女としてこの物語に登場して、
途中からは「巫女(みこ)」と呼ばれるようになります。
だから、タイトルが『ゼルダの伝説』でよかったんです。
『ゼルダ“姫”の伝説』じゃありませんから(笑)。

岩田

確かに(笑)。

青沼

で、ゼルダがなぜ伝説になるのか、
最後に解き明かされるようになっています。

岩田

初代『ゼルダの伝説』から25年の時を経て、
初めて解き明かされるということですね。

藤林

はい。だから、今回初めて、
正真正銘の『ゼルダの伝説』なんです。