坂本賀勇 GDC講演内容

こんにちは、はじめまして。任天堂の坂本賀勇と申します。

Hello. It's nice to meet you. I'm Yoshio Sakamoto with Nintendo.


・・・と、英語はここまでです。
本日はたくさんの方々にお集まりいただきまして、非常に緊張しております。
同時にこの場が、皆様にとって実りのあるお時間になりますようにと、
気持ちを新たにいたしました。どうぞしばらくの間お付き合いくださいませ。

私はこの業界でかなり長く仕事をしておりますので、
それなりの数のゲームソフトに携わってまいりました。
いちおうベテランに分類される私ですが、
こういった場をいただいて話をするのは実は今日が初めてですし、
ここにお集まりの皆様方は、私のことをよくご存じないと思います。

なぜならば私は・・・
「海外でよく知られているタイトルは『METROID』シリーズのみ」
と、いっても言いすぎではないからです。

『メトロイドプライム』シリーズ(※1)の開発にはほとんどノータッチですから、
余計になじみが薄くなっています。

※1

『メトロイドプライム』シリーズ=ゲームキューブ用ソフトとして発売されたファーストパーソンアドベンチャーゲーム。三部作が制作され、1作目は2003年2月に、2作目の『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』は2005年5月に、3作目の『メトロイドプライム3 コラプション』は2008年3月に発売された。

さらに・・・
「その他のタイトルは、マニアックだったり、ドメスティックだったり、
個性的であったりするものが多い」

だから・・・
「海外のマーケットでは、発売されることが少ない」と、非常に明確です。
決してゲームがつまらないわけではありませんので、
そこは誤解をなさらないように・・・。

ちなみに日本では、『METROID』もマニアックなタイトルとして知られていますので、
日本国内における私は「マニアックなものしか作らない奴」ということになります。
つまりグローバルではなく、
「ニッチ路線の傾向が強いゲームデザイナー」というのが私の正体です。
会社から怒られそうですが、私はこのスタンスをかなり気に入っています。

さて、今日は、
「岩田社長が疑問に思う、私のゲーム制作」というテーマで、
お話をさせていただきたいと思います。

「岩田の疑問とは、いったいなんなのか?」をご説明するためには、
私が携わってきたタイトルのご紹介が必要です。
皆様になじみの薄い私のご挨拶代わりとして、ご了承いただければと思います。

では、最初に『METROID』の紹介から始めたいと思います。

これは、『METROID Other M』というWiiのタイトルです。
『METROID』シリーズでは、主にディレクターを務めてまいりましたが、
シリーズ最新作『Other M』では、プロデューサーを務めております。

この新しい『METROID』は、来る6月27日に、 ここ北米において発売予定となっております。
(※この講演後に北米での発売日は8月31日に変更になっています)

このタイトルは、日本のゲーム業界、CGや映像業界、音楽業界の
第一線で活躍中のプロフェッショナルが結集し、
究極の『METROID』を目指して鋭意制作中の超大作ソフトです。
長期にわたるこのプロジェクトは、昨年2009年のE3でデビューしました。

では、私が携わった『METROID』シリーズの、
それぞれのタイトルをご紹介させていただきます。

NES(※2)の『METROID』 。
サムスの活躍はここから始まりました。

このタイトルでは、私は「デザイナー」としてクレジットされています。
当時はビデオゲームの黎明期であり、
プロジェクトにはまだ経験やノウハウが蓄積されていませんでしたので、
みんなで色々と試行錯誤して開発しました。
自分だけで『METROID』フランチャイズを立ち上げたわけではありません。

※2

NES=Nintendo Entertainment Systemの略。ファミリーコンピュータの海外での名称。

だから、「『METROID』の生みの親」と呼ばれることには抵抗があります。
どちらかといえば自分は「サムスの育ての親」だと自覚しています。
『METROID』の生みの親はやはり、クイーンメトロイドでしょう(笑)。

クイーンメトロイドといえば、
GB版の (※3)です。
実はこのタイトルに私は一切参加しておりません。
しかしこのゲームのラストで描かれた
「サムスの目の前で生まれたメトロイドの赤ん坊が
彼女を親だと思ってついてくる」という演出に
私はインスパイアされ、SNES(※4)『スーパーメトロイド』(※5)は生まれました。

そして『Other M』へと語り継がれることになるのです・・・。
この『メトロイド II RETURN OF SAMUS』がなかったら、
シリーズの未来は全く違ったものになっていたでしょう。
そして、私がここに立つこともなかったかもしれません。

※3

『メトロイド II RETURN OF SAMUS』=1992年1月に、ゲームボーイ用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

※4

SNES=Super Nintendo Entertainment Systemの略。スーパーファミコンの海外での名称。

※5

『スーパーメトロイド』=1994年3月に発売された、スーパーファミコン用アクションゲーム。シリーズ3作目。

私は、SNES『スーパーメトロイド』では、ディレクターを務めました。
このゲームでは、アクションゲームにドラマ性を持たせ、ゲーム終盤では
プレイヤーのコントロールを一時的に奪い、演出表現を入れるという、
おそらく当時では珍しい手法にチャレンジしました。

そのあたりのシーンは、
今作『METROID Other M』のオープニングシーンの元となっておりますので、
皆様に見ていただこうとご用意してまいりました。ご覧ください。

そしてGBA『メトロイドフュージョン』(※6)では、
さらにストーリー性とドラマ性を色濃くさせ、
「無言のストーリーテリング」と評価を得ていた『スーパーメトロイド』の手法から
「言葉によるストーリー展開」に踏み出しました。

現在制作中の『METROID Other M』が、
時系列的には『スーパーメトロイド』と
『メトロイドフュージョン』の間に位置するタイトルであることを、
ここにおられる方の中には、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか?

※6

『メトロイドフュージョン』=2003年2月に発売された、ゲームボーイアドバンス用アクションゲーム。シリーズ4作目。

続くGBA『メトロイドゼロミッション』(※7)は、NES『METROID』のリメイク作ですが、
オリジナルにはなかったシナリオを加え、ストーリー性を強めました。
ゼロスーツサムスのデビュー作となったタイトルです。

ゲームボーイアドバンスの2作では、ディレクターを務めました。

※7

『メトロイドゼロミッション』=2004年5月に発売された、ゲームボーイアドバンス用アクションゲーム。シリーズ5作目。