坂本賀勇 GDC講演内容

さておさらいの意味も込めまして、私のプロデュースによる、
最近の「コミカルタッチ」の代表作『トモダチコレクション』と
「シリアスタッチ」の最新作『METROID Other M』のお話をさせていただこうと思います。

まずは『トモダチコレクション』についてですが、
短い時間で言葉で説明するのは無理がありますので、
とりあえず動画を見ていただこうと思います。では、ご覧ください。

『トモコレ』がなんなのか、ご理解いただけましたでしょうか?
理解は無理でも、面白がっていただけたなら、私はハッピーです。
『トモコレ』とは、自分の知り合いや家族、
有名人などのMiiを登録して楽しむことのできるソフトです。
『トモコレ』は、昨年6月にリリースされたソフトなのですが、
大もとを辿れば私が、実にその9年前から構想を抱いていたソフトなのです。

友だちづくりやコミュニケーションのきっかけになるようなソフトとして、
2000年に日本国内のみで発売した、小さな女の子向けのゲーム(※27)がもととなり、
『トモダチコレクション』へと発展しました。
占いをテーマとした元のゲームに少々の毒を加え、
『大人のオンナの占い手帳』という、やや怪しげなムードのものとして開発していました。
ところが、ある発明によってプロジェクトは大きな方向転換をすることになりました。

※27

小さな女の子向けのゲーム=2000年9月にゲームボーイカラー用ソフトとして発売された、『とっとこハム太郎 ともだち大作戦でちゅ』のこと。

実は、Wii『似顔絵チャンネル』(※28)でおなじみのMiiは、
この『トモコレ』から生まれたのです。
ある日スタッフがMiiの原型となるモンタージュのような仕組みを見せてくれました。
それは現在のMiiとよく似た仕組みでしたが、
ただ顔のパーツを入れ替えるだけのものでした。
試しに自分の顔に似せてみようとしましたが、当然似ません。

※28

『似顔絵チャンネル』=Wii本体内蔵ソフト。家族や友人など、顔のパーツを組み合わせるカンタン操作で似顔絵キャラクターのMiiをつくることができる。

「これ・・・パーツのサイジングはできないの?
目の角度とか高さとか変えられないの?
そうしたら、けっこう似せられるんと違う?
僕みたいな規格外の顔もちゃんと作れないとダメでしょ」と言ったところ
スタッフはすぐに改造してくれました。
やってみると、自分の顔ができました!
さらに私より規格外の顔の人の似顔絵もバッチリでした。

もちろん私は例によって、この大発明を岩田に自慢しに行きました。
当然岩田は喜びました。私の勝ちです。
と、悦に入っていた数日後、岩田からこんな話がありました。
「その似顔絵、Wiiに貸してもらっていい?」
・・・驚きは隠せませんでしたが、もちろん二つ返事でOKです。
岩田の言葉はさらに続きます。
「似顔絵のスタッフも、貸してもらっていい?」
スタッフの、宮本チームへの留学が決まりました。

約1年後にスタッフたちは、たくましくなって帰ってきました。
プロジェクトの再開です。この留学で得たものはたくさんありました。

まず宮本チームで修行したスタッフがパワーアップしていました。
そして似顔絵エディターの仕組みが、当然ですが完成していました。
さらに、我々の似顔絵キャラがMiiという名前で世の中に広がっていきました。

Miiの発明によって、『大人のオンナの占い手帳』から
『トモダチコレクション』へと、方向転換したプロジェクトは、
そこから完成までには、正直色々な苦労がありました。
なにぶん前例のない遊びですので着地ポイントが見えなかったのです。

プロジェクトの期間中、私は『Other M』の仕事で、出張ばかりでしたので、
ディレクターは心細かったと思います。
出張中は、現場からホテルに帰ると夜遅くまでディレクターと
メールのやり取りをし、仕様を決めたり、時々かき回したりしました。

このプロジェクトのプロデューサーとして自分が果たした役割で大きかったものは、
ディレクターと共に描いてきた『トモコレ』のイメージを、
一緒に守り抜いたことだと思っています。
そして、その『トモコレ』に入れるべきもの、
こだわるべきことへのアドバイスと取捨選択をしたことだと思っています。
自分の引き出しに、変なものから珍しいものまで、
幅広く溜め込んでいて良かったと思いました。

ところで、このソフトでの、作り手がコントロールする
“ムード” “間” “伏線” “コントラスト”とは具体的にどういうものなのでしょうか?
ソフトの仕組みの中に、小さくその姿を見出すこともできますが、
実は『トモコレ』においての
“そのコントロールの主導権は、プレイヤーにゆだねられている”のです。

この言葉のヒントは、先ほどの動画と
「コミュニケーションソフト」というジャンルに秘められていますが、
お気づきになりましたでしょうか。

『トモコレ』は、自分自身が楽しむ遊びであると同時に、
誰かに面白がってもらうためのツールでもある・・・というのが、
先ほどの言葉の意味となります。
常日頃より“笑い”に大きなエネルギーを注ぐ私の、
プロデューサーとしての腕の見せどころなのです。

このタイトルにつきましては、まだまだお話ししたいエピソードが
たくさんありますが、あるエピソードを一つだけご紹介させてください。

『トモコレ』音楽担当者へのアドバイスとして言った言葉に
「君はパンツを脱いでいない」というものがあります。
わかりやすく言えば「取り繕うな」とか「自分を出せ」という
イメージなのですが、そんな単純なものではありません。

この言葉には、ニュアンスとしての意味がたくさん込めてあるのです。
そんな説明するのが難しいものをなぜ、わざわざ持ち出すのか?というと、
このエピソードも岩田に大いにウケた、
つまり“私が勝った”ということを皆様にお話ししたかったのです。