社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編

岩田  聡 [取締役社長]
岩田  聡 [取締役社長]
河越  巧 [企画開発本部 環境制作部]
河越  巧 [企画開発本部 環境制作部]
朝川 里美 [情報開発本部 制作部]
朝川 里美 [情報開発本部 制作部]
高野 充浩 [情報開発本部 制作部]
高野 充浩 [情報開発本部 制作部]
滝澤  智 [情報開発本部 制作部]
滝澤  智 [情報開発本部 制作部]
宮永 真 [情報開発本部 制作部]
宮永 真 [情報開発本部 制作部]
池松 真一 [情報開発本部 制作部]
池松 真一 [情報開発本部 制作部]

第3回「粘土細工をこねるようなやり方で」

岩田 前回は、比較的若い開発者の方に集まってもらいましたが
今回は、どちらかというと『ゼルダ』の開発に慣れた、
経験豊富な開発者のみなさんに集まってもらいました。
それでは、自己紹介をよろしくお願いします。
じゃあ、河越さんから。

 
河越 『トワイライトプリンセス』で
シネマシーンディレクターを担当しました河越です。
シネマシーンディレクターというのは、
ストーリーを語るために、プレイの合間に挿入される
いわゆるムービーと言われる部分を担当する仕事です。
これまでの仕事でいうと、
『時のオカリナ』『ムジュラの仮面』『風のタクト』で、
シネマシーンディレクターとして参加してきました。

岩田 次は、朝川さん、お願いします。

朝川 朝川です。私は今回、ゲームに登場する
ノンプレイヤーキャラクターにまつわる
さまざまなことの取りまとめを担当しました。
これまでの仕事では、『時のオカリナ』
『ポケモンスタジアム金銀』『ムジュラの仮面』
『スーパーマリオサンシャイン』でノンプレイヤーキャラを担当し、
『ピクミン』と『ピクミン2』で敵やデモ、
『風のタクト』ではボスキャラのアニメーション等を担当しました。

岩田 はい、高野さん。

高野 高野です。今回『トワイライトプリンセス』では、
基本的にストーリー部分のスクリプトを担当しました。
また、ムービー関係や、
少しだけイベントにも関わりました。
いままでの作品は、
『1080°テン・エイティ スノーボーディング』が終ったあと
『オカリナ』のサポートに入りまして、
それからはこれまでの『ゼルダ』シリーズを、
もうずっとやってます(笑)。

岩田 『ゼルダ』三昧の人生ですね(笑)。

高野 『ゼルダ』三昧です(笑)。

岩田 はい、滝澤さん。

滝澤 滝澤です。今回の『トワイライトプリンセス』では
アートディレクターを担当しました。
全般的なデザイナーの統括業務なんですけども、
絵柄の全体的な方向性を決めたりですとか、
どういう技術を用いるかといった判断をしたりですとか、
あとはデザイナーの環境を整えていくというようなことを
幅広く担当しました。
これまでは、『スーパーマリオ64』からはじまり、
『スターフォックス64』をやって、
そのあと『オカリナ』に関わったんですけども、
それ以降は、高野さんと同様、『ゼルダ』三昧です(笑)。
ちなみに、『風のタクト』のときは
デザインマネージャーでした。

岩田 『風のタクト』のときのデザインマネージャーと
今回のアートディレクターでは
役割としてはどういうふうに違いましたか。

滝澤 『タクト』のときは、
あの絵柄で行くということを決めたときに、
全体のタッチをどうしていくかということを
ほかのスタッフと相談して決めていきました。
今回の『トワイライトプリンセス』では、
そういうデザインに直接関係する作業のほかに、
全セクションにおけるデザイナーの環境整備や、
「こういう人が足りないから用意してほしい」
といったような要望に応えたりするような
「やりくり」に関わる業務が増えた感じです。

岩田 そういう業務が必要になるということは、
今回のプロジェクトは、
デザインの部分で関わった人の量が
いままでの中でもっとも大きいということでしょうか。

滝澤 それはもう、ダントツに大きいです。

岩田 わかりました。はい、宮永さん。

宮永 宮永と申します。
今回の『トワイライトプリンセス』では
サブディレクターという肩書きで、
おもにフィールド中心のネタの仕込みや
キャラクターなどの配置、
そういったことを担当しました。
じつは『ゼルダ』の経験は、『時のオカリナ』以降、
『トワイライト』が2回目になります。
『時のオカリナ』のときは
フィールドデザイナーという肩書きでして、
おもにハイラル平原を担当していました。

岩田 はい、池松さん。

池松 池松です。肩書きはプランニングサブディレクターで、
主にダンジョンの担当になります。
ダンジョンの設計をしたり、敵をどう配置するかという
調整の部分をおもに担当しました。
『ゼルダ』は、『オカリナ』で初めて参加しまして、
そのときはダンジョンデザイナーという立場でした。
その後は、『ムジュラ』を経て、
『タクト』でプランニングを担当して
『トワイライトプリンセス』に至ります。

岩田 それではまず、みなさんの実感として、
『トワイライトプリンセス』の開発は
これまでの『ゼルダ』シリーズの開発と
何が違ったのかということを訊いてみたいと思います。
これは『ゼルダ』シリーズに
昔から関わっている人に訊いたほうがいいですね。
高野さん、これまでと何が違いましたか?

高野 そうですね。やっぱり今回の『ゼルダ』は、
開発に関わっている人の数がすごく多いので、
『ゼルダ』に対する個々の思いがかなり異なるんです。
しかも、それぞれの思いは熱いわけで(笑)。
となると、「こういうふうにやっていこう」というときも
全員がすんなり納得することが少なくて、
よい意味で「ぼくはそう思いません」
という意見が出てくるんですね。
ですから、今回の『ゼルダ』は
もっとも開発者が激論を交わし合った、
もっとも熱い『ゼルダ』なんじゃないかなと思います。
当然、それをまとめるディレクターの青沼さんは
苦労したと思いますが、
最終的にひとつにまとまったところで、
もっとも大きな『ゼルダ』になったと感じています。

岩田 規模が大きいがゆえに、
みんなの意思をそろえるのが
いちばん大変だった『ゼルダ』。

高野 はい、そうですね。

岩田 なるほど。滝澤さんは?

滝澤 デザイナーとしての立場で言いますと、
今回はやはり物量が大きかったですから、
社内のデザイナーだけでなく、
たくさんの派遣社員の方にも手伝ってもらったんです。
ですから、いままでよりも、人に対するケアや、
方針の伝達と、進捗の管理といった業務が重要になりました。
また、現場でのやりとりも、これまでは先輩と後輩が
「ここはこうしよう」「それはこうしましょう」
という感じでガーッと進めていたものが、
少し離れた立場のところにいる人に
「こういうものを作ってください」と
ある程度の指示を出して作ってもらう部分もありました。
今回は、とにかく規模が大きかったですから、
デザイナーの分野に限らず、
リーダーと呼ばれている人たちは
少なからず指示や管理ということを
やらざるをえなかったと思うんですが、
やはりみんな、そういう経験が豊富なわけではないので、
それぞれのリーダーが仕事の組み立てについて
かなり試行錯誤していたプロジェクトだったと思います。

岩田 なにしろこれだけの規模のプロジェクトですから、
過去の『ゼルダ』経験者はとくに、いままでと違う役割を
あらゆる角度から求められたんじゃないかと思います。
しかし、いろんな人に的確な指示を出そうにも、
固有名詞もイベントもキャラクターも膨大な量ですから、
そもそも、全体像を把握することが困難ですよね。
とすると、そういう勘所のいい人が奔走して
みんなのあいだをつなぎまわらないと
プロジェクトが前進しないんじゃないかと思うんです。
そうじゃないと、誤解が誤解を生んで、
「いや、それじゃつながらないんだよ」とか
「これだと矛盾しちゃうんだよ」ということが
山ほど出てくると思うんですけど、どうですか。

滝澤 はい、そういうことはあったというか、
もうずっとそういう状態だったと思います(笑)。

朝川 すごく大きな課題でしたね、それは。

岩田 高野さんはストーリーのアウトラインの部分を
ある程度統括していた立場でしたから、
そういった全体像の把握ということに対して
早くから意識的だったと思うんですが、
今回はそうとう苦労したんじゃないですか?

高野 そうですね。ただ、『ゼルダ』って昔からそうなんですが、
ストーリーというのはディレクターが
大まかに決めた起承転結が最初にあって、
あとはシステムとしておもしろいものを
どんどん付け加えていって、それが入るたびに、
後づけでストーリーがつけ足されていくんですね。

岩田 ああ、はじめに物語ありきではないんですね。

高野 ないんです。
それはいままで一度もないんです。

岩田 ようするに、『ゼルダ』における「物語」は、
おもしろい仕掛けを最大限生かすために、
どう辻褄を合わすかという機能を担当するもので、
体をひねって着地するのが最大の仕事なんですね。

高野 はい。ですから、個々のセクションに入って、
情報を吸い上げることによってぼくの仕事は進むし、
逆にいうと、それぞれのセクションのリーダーたちが
うまくおもしろさを当てはめてくれたおかげで
この作品は最終的にまとまっているんだと思います。

岩田 この大きなプロジェクトが
全体としてひとつの方向に向かうきっかけというか、
意識が共有されるようになったきっかけはありましたか?

高野 そうですね、最初は、ストーリーやイベントが、
漠然とした感じでできていったんですけれども、
アートディレクターの滝澤さんが初期の段階で
この『トワイライトプリンセス』の世界観みたいなものを
ほかのデザイナーの人たちといっしょに作ってくれて、
実際のゲーム画面として見せてくれたんです。
それを見たときに、初めてそれぞれの開発者が、
「あ、これが今回のテーマなんだ」とか
「こういう世界観なんだ」ということを
実感できたように思います。
それまでの、紙の上で物事が決められていたときは、
みんなの頭の中にそれぞれの世界観があって、
やはりそれは統一することが難しかったんですね。
それを、滝澤さんたちが絵としてまとめてくれることで、
初めてみんなが「この方向でいいんだ」と実感できて、
じゃあ、これを突き詰めていくために
ダンジョンはこうしよう、フィールドはこうしよう、
というふうにまとまっていったように感じます。

岩田 やっぱり具体的なものが目に見えて初めて
イメージのすり合わせができるようになっていった。

高野 はい。

岩田 滝澤さんがそれを作ったときは
全員のイメージを統一する必要性を感じていたんですか。

滝澤 そうですね。やはり、最初のころは、
企画全体がなかなかまとまりきらなくて、
そういうものを見せたほうがいいと思いました。
ぼくは本来、ゲーム作りにおいては、
デザイナーだけの集まりで何かを判断して
やっていくべきではないとは思ってるんです。
やはりディレクターがいて、
プランナーがいて、プログラマーがいて、
「こういうものを作りたいんだけどね」
と言ってる中で、デザイナーがいっしょに、
「じゃ、こういうものはどうですか」って
提示していくべきだと思っているので。

岩田 滝澤さんのゲーム開発における価値観としては、
デザイナーが「こういう絵を描きたい」と言って
絵を作るのではなく、
「こういうゲームを作りたい」という
それぞれの開発者の意見に応じて
「いちばんいい表現は何か」ということを
追求していくことが自分たちの役割だと。

滝澤 だと思ってます。

岩田 それは、とっても任天堂らしい価値観ですね。

滝澤 もちろん「こんなのがいいんですけど」
という提案はしていっていいんですけれども、
基本的には「いいゲームのために最適な表現」を
探していくことが大切だと思っています。
ですから、今回は、企画がまとまらなかったときに、
全体の方向性を統一するために
絵作りを率先してまとめていった時期もありましたが、
意思共有ができて企画がうまく運び始めてからは、
各セクションのリーダーが中心になって
ゲーム内容にあった絵作りをまとめていってくれました。

岩田 なるほど。
個々の企画や設定が決まってないと
作りにくいものの代表例に、
河越さんの担当してるムービーがあると思うんです。
いくら早めに作ろうとしても、
そのもととなるいろんなものが変わっちゃったら、
やったことが台なしになってしまいますよね。
河越さんは『ゼルダ』に限らず、
いろんなプロダクトのムービーを作ってきた人ですけど、
今回のプロジェクトで特徴的だったことはありますか。

河越 たしかに、今回のプロジェクトは
決まってないことが非常に多かったんですが、
私もそれなりに経験がありますので(笑)、
こういう形で作っておけばいろんな局面に対応できるな、
という先読みする形で絵コンテを作って
乗り切っていくようにしました。
それでも、修正するべきところは
やはりたくさん出てくるんですが、
なるべく修正を見越して作業をするようにしてました。

岩田 2004年のE3で初めて
『トワイライトプリンセス』のムービーを
電撃的に公開したんですけど、
あれは河越さんのチームが作ったものですか?

河越 あ、あれは違います。
あのときは私はまだ本格的に関わっていませんでした。

滝澤 あれはアメリカのチームに担当してもらいました。
しかも、一見ムービーに見えますけれども、
あれはムービーではなくて、ROMでのプレイを
カメラワークの変化だけで編集してくれたんです。
アメリカのローカライズチームの中に、
カメラワークに関して天才的な人がいまして
ふつうにプレイしているだけでは
とても撮れないようなものを
あそこまで仕上げてくれたんです。

高野 熱狂的な『ゼルダ』ファンで、
その人の熱い思いでできたような感じですね。

岩田 ああ、そうだったんですか。
あれをE3で公開したときは、
本当に熱狂的な反応があったんですけれども、
ご覧になりましたか?

高野 見ました(笑)。

岩田 観客の中には泣いてる人までいましたからね(笑)。
いや、歓声をあげて迎えてくれる、
みたいなことは予想しましたけど、
泣く人がいるとは私は思いませんでした。
あれを見て、どう感じました?

滝澤 うれしかったですねえ。
そのときに「やった!」という
気持ちがあったのももちろんですが、
その後の開発中にも支えになったんです。
やはり、大きなプロジェクトですので、
長い開発期間の途中で、精神的に、
くじけそうになるときがあるじゃないですか。
そういうときに、というか、いまだにそうなんですけど、
ふっとあのムービーや歓迎してくださった人の
反応を思い浮かべることでがんばれるという(笑)。
でも、これ、ぼくだけじゃなくて、
けっこうスタッフみんなが言ってるんですよ。
あれが励みになったということを。

岩田 なるほど、なるほど。

高野 しかもあれがムービーではなく、
実際のゲーム画面だったということが
大きな励みになりましたね。
これが完成して、待っている人のもとに届けば、
きっとすごいことになるぞ、という。

滝澤 絵作りの方向が間違ってないんだなという部分でも
デザイナー部門は励まされました。
この絵で本当に喜んでくれるんだなというのを
実際に確認できたので。

朝川 あのムービーを見せたときの反応で、
ゲーム全体の方向性が決定するって感じでしたからね。
ですから、E3の直前というのは
受け入れられるかどうか、怖くもあったんですけど。

岩田 あの映像が熱狂的に受け入れられたことによって、
みんなが「これでいいんだ」と思えて、
開発がすごく進めやすくなったんですね。

滝澤 そうですね。デザイン部門に関してはとくにそうでした。

岩田 おそらくそとから見ている人たちは、
任天堂の『ゼルダ』チームといえば、
ものすごくゲーム作りに慣れていて、
外からインプットがなくてもモチベーションを維持して、
最後まで巨大なプロジェクトを
走らせていくんだろうと思っていますよ。
だけど、やっぱり『ゼルダ』も、
ふつうの人間が作っているのでね(笑)、
初めて人に見せるときは不安だし、
受け入れられるとすごくうれしいし。

滝澤 とくにリンクのデザインは、
じつはものすごくドキドキしてたんです。
『時のオカリナ』と同じラインを
踏襲したような感じではいたんですけども、
リアルにすればするほど、
無機質な人形みたいになってしまう傾向がありますから。

岩田 たしかに『トワイライトプリンセス』の絵は、
リアルだけれども単なるフォトリアリズムではない、
独特の雰囲気があると思います。
「リアルな『ゼルダ』がやりたい!」という声は
海外を中心に大きかったんですけれども、
それに応える絵作りって簡単ではないわけで、
そのへんの苦労を教えてもらえますか。

滝澤 フォトリアリズムを追求するわけではない、
というのは開発の初期から
デザイナーのあいだではずっと言ってまして、
やっぱり「いかに写真に近いか」みたいなことで
対抗し合っていくことの無意味さというか、
現実の世界を苦労して再現することに
あまり意義が見いだせなかったんですね。
それよりは「こういうものを作りたい」という
味のところで勝負するべきだと思ったし、
『時のオカリナ』のときにみなさんに評価していただいた
「空気感をすごく感じられる」というところに
重きを置きたかったんです。

岩田 しかしそれはすごく
「言うは易し、行うは難し」ですよね。
絵を描くことっていうのは、
やはり個人の作風があると思うんです。
とくに今回のプロジェクトでは
グラフィックに関わる人の数が多いわけで、
「みんながそれぞれ自分の味を出して
描きたいものを描きながら、同じ空気感を醸し出す」
というのは並大抵のことではないと思うんですが、
どういうふうに解決していったんでしょうか。

滝澤 そこらへんというのは、
いつも不思議に思うことなんですけど、
大きな苦労や劇的なコツがあるわけではないんですよ。
それは、『時のオカリナ』のときも、
『風のタクト』のときもそうだったんです。
たとえば『タクト』はすごく絵柄が特徴的というか、
どちらかというと偏った絵柄ですよね。
でも、とりたてて「こういう絵で統一しよう」といった
約束事を徹底させたわけではないんですよ。
最初に、リンクのデザインがあって、
それに対応した敵のデザインがあって、
あとは、最初の島の全体像がひとつある。
そのサンプルがあるというだけで
みんながその世界を上手に
拡大再生産していってくれるんです。
作っている最中はちょっと心配になるんですけれども、
けっきょく開発の最後の段階で、
絵柄も動きも急速にまとまっていくんですよね。
ですから、今回の『トワイライトプリンセス』でも、
地形やキャラクターのフォルムに関して、
ベーシックなラインの設定というのは
開発の初期に一度徹底的にやって、
それ以降はほとんどやっていない状態なんです。

岩田 つまり、初期のサンプルステージや、
E3で受け入れられたムービーみたいなものが、
「動く仕様書」のような役割を果たしていて、
そこから各自がいろんなものをつかんで作るというような。

滝澤 そうです。ですから基本はやっぱり、
「デザインしたいものを描いてください」
というスタンスでずっとやってきてますね。

岩田 実際に作業をしていてどうですか、朝川さん。

朝川 そうですね。なんとなくみんなの頭の中に、
「こういう方向性」というのが共有できてる状態で
作業をしているように思うんです。
かといってそれは厳格なルールとは違っていて、
それがあるためにオリジナリティが薄れるとか、
おもしろみが消えてしまうのは一番よくないことなので、
基本的には「素直に描いていいですよ」ということで。
で、できあがってきた絵を、最後に少し、
『ゼルダ』の統一感が生まれるように直す。
それだけでうまくいっていましたね。
とくに開発の後半になればなるほど、
うまい流れでできていくというか。

岩田 そういうものなんですねえ。
いや、じつは私は、誰かひとりが
ものすごく汗をかかなければ、この巨大な世界は
ひとつにならないのではないかと想像していたんです。
まあ、自分の会社を持ち上げるのもなんですが、
これが情報開発部のすごさなのかと、
いまみなさんの話をうかがいながら
あらためて感じてるんですけど。

宮永 自由に、といいつつも、ポイントポイントでは、
滝澤さんのチェックがきちんと入って、
そこで方向性が整えられていったと思います。

岩田 おおごとにならないうちにトントンと直して
調整ができているんでしょうね。

宮永 そうですね。要所要所で
滝澤さんをはじめとする各セクションのリーダーが
うまいさじ加減でそろえているというか。

岩田 デザイン以外の部分もうかがってみましょう。
宮永さんと池松さんはある程度時間が経ってから
このプロジェクトに合流したわけですが、
最初に加わったとき、どんなことを感じましたか?

池松 最初、E3のデモを見せてもらったんですけど、
やっぱり、すごいなあと思って。
「わー、ここまでできてる!」みたいな感じで
すごくわくわくしながら合流したんですけど……
じつは……まだそれほどできていなかった。

一同 (笑)

池松 本当に、E3のデモから本格的な作業が始まったというか、
「こういう世界でみんな遊びたいんだろうな」
という気持ちで、それをかなえるように
設計していくような、そういう感じでしたね。

岩田 宮永さんはどうですか?

宮永 じつはぼくは志願してチームに入ったんですが、
やはり池松さんと同じように、入ってみたら、
全体的な構成が、まだ決まっていない状態で
正直、愕然としたんですけど(笑)。
個々の素材はそろってるんですけど、
その下地となるものがなかったんですね。
それで、まずは下地を作ろう、と。

池松 「とりあえず箱を作ろう」
という言い方をしてたんですけど、
要するに、場所ができていなかったんです。
遊ぶ場所がなかったら検証もできないですし、
みんなどう楽しいかわからないので、
まずそれを先に作ろうという感じで。

宮永 理想的には、いろいろな仕様が決まっていて、
それに合わせて順次作っていくというのが
いちばん望ましいとは思うんですけど、
やはり『ゼルダ』の作り方というのは
仕様に合わせる開発ではないんですね。

岩田 たぶん、最初に仕様を決めて作っていくと、
『ゼルダ』にならないんですよね。

宮永 そうだと思います。
だから、とりあえずもう土台というか箱を用意して、
そこで粘土細工をこねるようなやり方で
作っていかないと、できていかない。

池松 箱ができると、みんなが具体的に
いろいろと詰め始めるんですよ。
そうすると、いいものはいいように見えてきますし、
そこにみんなが意見をつけ加えて、
いいものがさらにわかりやすくなるように、
どんどんまたブラッシュアップされていくんです。

岩田 「ここはいいよね」という
具体的な話として転がり始めるんですね。

池松 ああ、そうですね。
それでどんどん刺激されて
どんどんよくなっていくって感じで。

岩田 チームがいくつもあると、よい意味で刺激し合って、
連鎖するように完成度が上がっていく
というのもありますよね。
あるチームがいいネタを作ってウケると、
「じゃあ、こっちも!」というふうに。

宮永 それはありますね。
「あっちで使ってるネタを、
こっちはちょっと変えて使ってみよう」
とかいうのが、実際の画面を見ながらだと
すごく話がしやすくなるので、
加速度的に仕上がっていくというか。

池松 どうしても紙だけだと
わからないところがあるんですよね。
作らないとそこまで具体的には話ができないし、
問題も見えづらいし、解決策も出てこない。

岩田 やっぱり、実際に形になってから
そうやっていじっていくというのが
『ゼルダ』らしい商品になっていくための
大きなエネルギーなんですね。

池松 そうですね。
そこからどんどんおもしろくなっていきますね。

岩田 分厚い仕様書を書いて、
そのとおりに作りますという作り方では
絶対できないことをやってるんですね。



第4回 「つねに全員が『ゼルダ』らしさを意識している」へ