社長が訊く
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社長が訊く『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』

社長が訊く『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』

目次

3. 「人とちがったことがしたい」

岩田

『X』のお話を訊くのは2度目ですので、
今回は大型アップデートに関してのお話も
お訊きしたいですね。
これまでWii版では大きく3度の
バージョンアップがありましたが、
どういった方向性で行っているんですか?

藤澤

発売して間もなかったときは、
レベル上げして、シナリオをクリアして、
最後のボスを倒しに行くという
いわば、いつもの『ドラゴンクエスト』の
一式はそろっていたんですが、
その状態ではまだオンラインとして、
「プレイヤーさんが自由に工夫して何かをできる余地」
みたいな部分は、十分ではなかったんですね。

岩田

はい。

藤澤

そこに対してプレイヤーのみなさんから、
「もっとこういう遊びがしたい」という意見を
たくさんいただいて、それを検討しつつ、
7か月かけていまのような、
「プレイヤーさんがもっと自分の個性を
 その世界で表現できる仕組み」を
段階的に盛り込んでいった感じです。

岩田

ああ、だから最近のアップデートでは
個性を立たせるところに着目した
コンテンツが盛り込まれてきたんですね。

藤澤

そうですね。
冒険以外の要素として、自分の家を持てたり、
バージョン1.2ではドレスアップ屋、
バージョン1.3では装備のカラーリング(※14)ができたりと、
自分の見た目をガラッと変えられる仕組みにも
力を入れて、ほかのプレイヤーと差別化ができることにも
注力していきました。

※14
装備のカラーリング=頭、体上、体下、腕、足装備と、一部の顔アクセサリーの色を20色の中から好きな色に変更できる。

岩田

遊びの幅をちがう方向にも広げて、
こだわるポイントが
選べるようになったんですね。

藤澤

はい。ただRPGとしては、
そこは本質ではないとは思うんですよ。
でも・・・。

岩田

でも、RPGが社会性を持った瞬間に、
その意味がまったく変わってくるんですよね。

藤澤

まさにそうです(笑)。
じつは僕たち開発側としては、
「プレイヤーが自分の個性を楽しむ仕様は
 もう少しあとでもいいんじゃないか」
と考えていたんですけれど、
いまのプレイヤーの声を総合していくほど、
「これは急いで実装するべきだ」と
少し早めて盛り込んでいるものなんです。

岩田

それは、プレイヤーのみなさんの要望が、
具体的にどんどん出てきたということですか?

藤澤

そうですね。
ひととおりゲームをクリアしたあと、
「人とちがうことをしたい」という声が、
とても多かったんです。
人とちがうということは、言い換えると
「その世界に自分がいるということを表現したい」
ということなんですね。

齊藤

とにかく自分たちが思っている以上に、
プレイヤーのみなさんの
いろいろこなしていくスピードが速くてですね。
やっぱり、集団のスピード感ってすごいんです。

岩田

みんなが協力しあうと、あっという間に
あらゆることがこなされていくって感じが、
あるんでしょうね。

齊藤

ありますね。
もう、驚きのスピードです(笑)。

藤澤

そのスピードを実際目の当たりにしたので、
自分たちがどのくらいのペースで
ものをつくっていく必要があるか、
逆に決まってきたわけです。

岩田

なるほど。
はじめてのオンラインですし、
最初はやっぱり
予想できないことだらけですよね。

藤澤

はい。最初の大型アップデートである
バージョン1.1から1.2につながるあたりは、
実際にプレイヤーの方から
「やることがなくなってしまいました」
という声もあがっていました。
ですから1.2以降は
「じっくり遊べて、満足感を得られるコンテンツ」を
テーマに立てて、1.3でようやく、
かなりやりこんでいるプレイヤーでも、
「やることがない」という状態は
回避できていると思います。

齊藤

本当に、一緒に育つ感じですね。
でもそのバランスが本当に難しくて、
多くしすぎてしまうと、
ついて行けない人も出てきますから。

岩田

いや、そうですよね。
「要素が増えてわからなくなってしまう」
ということはたぶん、
堀井(雄二)さん(※15)がいちばんやりたくない
ことなわけですからね。

※15
堀井雄二さん=『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親。

齊藤

そのとおりです。もちろん、
プレイヤーがだいたいどのレベル帯で、
どこにどういう人がいるというデータは
持ってはいるんですけれど、
すべての方に平均して
満足してもらうということは難しいので、
ある程度絞り込んでバランスをとっています。

岩田

お客さんの声をぜんぶ
取り入れられるわけではないですからね。
そこの取捨選択は、
どのようにされているんですか?

藤澤

まず、僕も齊藤もゲームの中に入って、
プレイヤーと同じ視点、同じ温度感を持って
みなさんがどんなことを気にされているのかを
体感することからです。

岩田

おふたりは遊び手としては
どのくらいプレイされているんですか?

藤澤

自分はいま500時間くらいです。
ちょうど『ドラクエIX』(※16)のプレイ時間を
超えましたね(笑)。
齊藤さん、どのくらいやってます?

※16
『ドラクエIX』=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』。2009年7月にニンテンドーDS用ソフトとして発売された、シリーズ9作目。

齊藤

うーん、1000時間くらいはやってるけど。

藤澤

ちょっとやり過ぎじゃないですか(笑)。

齊藤

いや、まだぜんぜん足りてないと思う。

岩田

まあ、普通のストーリーで遊ぶゲームは、
1000時間遊び続けられないですよね。
それはやっぱり、人がいてこそなので。

齊藤

プレイヤーの意見を聞くという意味では
あともうひとつ、「目覚めし冒険者の広場」という
『ドラゴンクエストX』の
公式コミュニティサイトがあるんですけど、
そこで藤澤がプレイヤーからの要望を聞いて、
実現可能かどうかといったことを
答えたりしています。

岩田

プレイヤーと直接キャッチボールして
「つくり手としてはこう考える」
ということをしっかり伝えているわけですね。

藤澤

そうですね。たとえばいいアイデアでも
それが実現できない場合は
できないからと無視するのではなくて、
なぜそれが難しいのかをちゃんと説明することで、
納得していただけるケースが多いです。
もちろん、すべてに回答できるわけではないんですが。

岩田

プレイヤーが不満に思っていることを
そのままにしておくと、それがほかのプレイヤーにも
伝わってしまいますからね。

藤澤

オンラインサービスはそれがいちばん怖いので。
不満の気持ちとていねいに向きあって
ケアすることが、大事なことだと思っています。

齊藤

と言いつつ、最近ちょっと
お返事が滞っていますよね。
そろそろ更新しないと・・・!

藤澤

すいません(笑)。
本当に自分が見て回答をしているので、
バージョンアップ前など、
時間が確保できない時には
ときどき返答が止まってしまうんですが、
それでも、ちゃんと見ていますので。
これからまた可能な限り、お答えしていきます。