社長が訊く
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社長が訊く『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』

社長が訊く『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』

目次

4. 「その向こう側に意思がある」

岩田

今後予定している大型アップデートで、
齊藤さんや藤澤さんが
「こんなことをしてみたい」と思っている
抱負や野望みたいなものはありますか?

藤澤

まずは従来の方針として、
『ドラゴンクエスト』としての冒険の深みと、
自分の個性の表現の幅を広げるという、
大きくふたつの軸があります。
どちらの軸も、より魅力的なものに
高める作業は続けていきますが、
次にテーマにしたいと考えているのは、
「ほかの人とグループになって遊んだら
 もっと新しい遊びが見えてくる」
ということです。
プレイヤー同士が一緒に遊ぶことで、
また新しい深みが出てくるはずなので。

岩田

一緒に遊んで、もっと楽しく、
ということですか?

藤澤

はい。ただそれだけ言うと当然、
「ひとりで遊んでいる人は
 疎外感を持ってしまうんじゃないか」
と思われてしまうかもしれませんが、
そうではなくて、グループで遊ぶとおもしろいし、
ひとりで遊んでもメリットがあるという
一見相反する両軸を実現していくことが、
次のバージョン1.4以降の課題だと思っています。

齊藤

そうですね。

藤澤

結局、僕たちがいくらがんばって
コンテンツをつくっても、
最終的におもしろいのは“人”なんだと
思うことが多いんです。
ここ最近の様子を見ていると、とくに。

岩田

それは、わたしもいつも思います。
ものをつくっていて
「人にはぜったいかなわない」と感じます。

藤澤

バージョン1.2で追加した魔法の迷宮で、
はじめてほかのプレイヤーと
パーティプレイを体験したという人が
たくさんいたんですね。
これは、ランダムでほかの人とパーティを組む仕組みだったので、
最初はやっぱり、すごく不安視する声があったんです。

岩田

そうですよね。
知らない人と接するのが怖いから、
ひとりでサポート仲間を借りて遊んでいた人も、
本当の人とはじめてやることになるわけですからね。

齊藤

本当に、不安視してる人は多かったですね。

岩田

「ひとりで遊べるようにするって
 言ってたじゃないか!」って(笑)。

藤澤

そうでしたね。それでメッセージとして、
「本当に怖くないし、簡単なあいさつだけで大丈夫ですから、
 だまされたと思って、一度やってみてください」
と、かなり直接的な言葉で伝えて、
実際にはじめてみたら・・・。

齊藤

みんな「あれ? 意外とおもしろいぞ」って。

一同

(笑)

藤澤

その日のうちに「これなら大丈夫だ」という声が
あっという間に多くなって、
みんなどんどん魔法の迷宮に入ってきてくれて。

岩田

人ってやっぱり、未知のことに対しては
すごく怖がるものですけど、
そこから一歩進んで大丈夫だと安心できると、
急に印象が変わるものなんですよね。

藤澤

魔法の迷宮は、はじめて知らない人と
遊ぶコンテンツですから、
限りなくシンプルにつくってあるので、
そこも受け入れられるポイントになったと思います。
実際、ほとんどのプレイヤーは
「よろしくお願いします」と
「おつかれさまでした」を言うだけで、
余計な気をつかわずに、楽しめるので。

岩田

でも、その向こう側にいるのは本物の人だから、
普段ひとりで遊ぶときにはない何かを感じて、
おもしろいと続けてくれるんですよね。

藤澤

まさに、そうです。
AI(※17)がかけてくれるホイミ(※18)と、
人がかけてくれるホイミはちがうんです!

※17
AI=人工知能(Artificial Intelligence)。コンピューターが人間の脳の働きを模倣し、知的な作業を行うこと。
※18
ホイミ=HP(体力)を回復する呪文のひとつ。

岩田

あははは(笑)。
でも、本当にそうですよね。

藤澤

「その向こう側に意思がある」と思っただけで、
感じかたがガラッと変わりますから。

齊藤

それまでは無言で冒険をしていた相手が、
ときどき隠し階でメタルスライムに会ったり(※19)すると、
「おおっー!?」とか言いながら、
ピョンピョンとジャンプしだしたりすると、
こっちも一緒にうれしくなっちゃう(笑)。

※19
隠し階でメタルスライムに会ったり=「魔法の迷宮」では、階を進んでいく途中でまれに「隠し階」というフロアが出現することがあり、そこでは経験値を多く獲得できる「メタルスライム」やゴールドを多く獲得できるモンスターなどが出現する。

藤澤

自分のステータスで「キーボードなし」っていう
アイコンを出しているのに、
メタルスライムが出たとたん、
ものすごい勢いでしゃべりはじめたり・・・。

岩田

(笑)

齊藤

そういったところが、
ぜったいAIとでは起きない
ハプニングだったりするんでね。

藤澤

ですから、最初はみんな怖がっていたけれど
人と遊ぶことの入門編みたいな感じで体験して、
実際に満足していただけたと思うので、
今度は「同じ人と繰り返して何かを遊ぶ」とか、
「グループで何かひとつの目標をめざす」といった
人と一緒に遊ぶ次のステップを、考えているところです。

岩田

以前、「ひとりでも遊べるんです」と
おっしゃっていた堀井さんは、
そういう仕組みを、
どう受け止められているんでしょうか?

藤澤

実際に堀井さん自身も、
最初はひとりでしか
遊ばないつもりだったと思います。
でも7か月経ったいまも、
堀井さんはものすごく
遊び続けてくださっているんですね。
たぶん僕よりも・・・。

一同

(笑)

藤澤

堀井さん自身が、実際ゲームの中で
人と一緒に遊ぶことに慣れていったのかな、
とは感じますね。
昔はそんなことなかったんですが、
最近本当に、いろんな人と遊んでいるみたいで。

岩田

ああ、それは堀井さん自身が
壁を乗り越えられたのかもしれないですね。

藤澤

だと思います。なので、
堀井さんは僕たちがイメージしている
プレイヤーの姿に近いかたちで
遊んでもらえているような気がしますね。

岩田

まさに、お客さん代表ですか。

藤澤

本当にそうです。
そのぶん、いろいろ大変ではありますが(笑)。

岩田

いちばん発言力が強いお客さんですからね。

齊藤

そうなんですよ。
堀井さんの話を聞くと、
いろんな人を手伝って、
おもてなしをしているんです。

岩田

ホイミかけたりしてるんですかね(笑)。

藤澤

してると思います。
実際に最近はじめたばかりの
プレイヤーの方と一緒に遊んで、
「ここがわかりづらいって言ってるよー」
って教えてくれたり。

岩田

どう考えても、一緒になって
遊ばれていますね(笑)。

齊藤

すぎやま先生も80歳を越えられて、
まだまだお元気ですけども、
けっこう遊ばれているみたいで。
オーケストラのメンバーの方と一緒に、
「もうラスボス前まで来たよ」という、
話を聞きましたね。

藤澤

ああ、もうそこまで行ったんだ?
すごいなあ。

齊藤

そこで、Wii U版が出るまで、
待っているらしいんです。

岩田

ああ、それはオーケストラで聴きたいからですね?

齊藤

そうなんです、エンディングを、
オーケストラで迎えたいという(笑)。

藤澤

そういうことなんだ(笑)。

齊藤

そう。だからよかったです、3月に発売できて。
Wii U版の音楽のご相談を差し上げているときに
発売時期のことをお伝えしたら
「そんなにかかるの!?」と言われていたので。

岩田

はい(笑)。でもこうしてお話を訊いていると、
やっぱり人の数だけ、ドラマがありますね。