社長が訊く
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社長が訊く『ルイージマンション2』

社長が訊く『ルイージマンション2』

目次

2. 「どう?」

岩田

開発がはじまって、
池端さんは2週間に1度のサイクルで
宮本さんに相談に行くことになったんですよね。

池端

はい。

岩田

その時、宮本さんは
どんなことを言ってくれるんですか?

池端

それはもう、いろんなことです。

宮本

たとえば、きのう見たテレビの話とか(笑)。

池端

そうでした(笑)。
「きのう見たドラマはこんなんやった」とか。

岩田

あははは(笑)。
でも、それが『ルイージマンション2』と
どういう関係があるんですか?

池端

僕ひとりで相談に行ったのでなく、
メンバーの数人を連れて行ってたんですが
「僕たちの緊張をほぐそうとしてくれているのかな?」
とはじめは思っていました。

岩田

(笑)

池端

でも、ドラマの構成で、
「1話の中で起承転結がどうだった」とか、
撮影における演出とかの話が出て、
「そういうことを気にしながらドラマを見ることも
 ゲーム開発につながるんだろうなあ」と思いました。
そこで、それまでは見たことのなかった番組も、
宮本さんが見ているというので、
次の週から見るようにしました。

岩田

そうしないと、
話題についていけないからですか?

池端

そうです、はい(笑)。

宮本

あのー、自分の名誉のために言っておきますと、
みんなに仕事を押しつけて、
僕はテレビばっかり見ていたんじゃないんです。
録画をして、夜中にじっくり見ていたんです(笑)。

岩田

はい(笑)。

池端

あと、宮本さんからは毎回、
「どう?」
と聞かれていましたよね。

宮本

そう。「どう?」とひとことで聞いて、
現状をひとことで答えてもらっていたんです。
そもそも僕は、一般の会議の時でも、
終わったあとに「どう? ひとことで言って今日の会議は」って
みんなに聞くようにしているんです。

岩田

それはつまり、
会議に出席した人が、
宮本さんから「どう?」って
聞かれるかもしれないので、
みんなが、その日の会議の要点を
ひとことで語れるように準備をし、
その結果、会議への集中力が増す、
ということなんですね。

宮本

そうそう。

岩田

そういう作戦?

宮本

狙ってます(笑)。

岩田

(笑)

宮本

でも、池端さんたちに聞く
「どう?」は、
一般の会議のあとの
「どう?」とはちょっと違っていて、
「いま、あなたたちの仕事のベクトルは、
 上向きなのか、下向きなのか、どっちにあるの?」
ということを聞いているんです。
「すごく困っている」のか、それとも
「ほっといてほしい」のか、
「どっちなの?」って。

岩田

ま、うまくいっているときは
ほっといてほしいものですよね、人って。

宮本

そうです。そんなときは、
もっとテレビドラマの話をするんです(笑)。

岩田

ただ、あとから考えると、
「テレビドラマの話が開発のヒントになっている」
ってことになりませんでしたか?
というのは、宮本さんが
テレビドラマについてする話は、
「それのどのシーンに共感できるか、できないか」
という話だったりしますから。
そういうことは、じつはゲームをつくるときに、
いちばん大事なことのひとつなんですよね。

池端

そうですよね。

岩田

そういった話を宮本さんから聞いて、
ネクストレベルゲームズのみなさんに、
どのように伝えていったんですか?

池端

日本のテレビドラマの話をしても、
彼らには当然、通じませんので・・・。

岩田

もちろんそうですよね(笑)。

池端

そこで、彼らが同じものをイメージできるように
映画の1シーンなどを題材にしながら、
「どうすれば共感を得られるか」
ということを伝えるようにしていました。

岩田

どのように聞こえていましたか?
ネクストレベルゲームズのみなさんには。

ブライス

そうですね。まるで
“センセイ(先生)”のコメントのようでした。

岩田

“センセイ(先生)”ですか(笑)。

ブライス

「ここをこうしなさい」という
具体的な細かい指示というよりは、
すごく高いところから
このプロジェクト全体を俯瞰(ふかん)するような視点で、
教訓のようなコメントがあって、
それがとても参考になりました。

池端

宮本さんからは
「プロデューサーとはこういうことを考えないといけない」とか、
「ディレクターはここまで考えないといけない」
というコメントをいただいていて、
それはゲーム制作全体にかかわることでもありましたから、
その言葉をそのまま彼らに伝えていきました。

岩田

でも、「こういうことを考えないといけない」
という“センセイ”のコメントを聞かされても、
開発現場の人たちにとっては、
目の前の問題が解決できるわけではありませんし、
「自分たちはどうすればいいんだ?」って
悩んだりしませんでしたか?

チャド

でも、たとえば宮本さんは
「これ、ホントに楽しいの?」とか
「これ、このようにつくりたいの?」
みたいなことを言ってくれたりするんです。
それって、つくり手の視点というよりも、
ゲームを遊ぶ人の視点なんですよね。
そのように、複数の視点から意見をもらえたのが
すごく参考になりました。

岩田

そうなんですよねぇ。
宮本さんの特別なところは
「いつでも視点を複数持っている」ことなんです。
ものをつくるとき、
あることに夢中になると
そこだけに視点が固まってしまいがちになるんですけど、
そうすると問題が起きたとき、
解決できないこともあるんですよね。
ところが宮本さんの場合、
そんな時でも意識的に視点を動かすことができて、
難しい問題を解いてしまう。

チャド

そうですね。

ブライス

宮本さんのコメントには
開発のヒントになるようなことが
たくさんあったんですけど、
その中でもとくに印象に残っているのは、
「きのうつくったものより、
 よりよいものを、きょうつくりなさい」
ということだったんです。
それはディレクターとしてもすごく大事なことで、
その言葉を実践することで、
長い開発期間であっても
「1日、1日に集中できた」と思います。

ブライアン

しかも、開発をずっとつづけていると、
どうしても細かいところばかりに
目が行きがちになるんですよね。
でも、宮本さんは
「次の数か月をどのようにしていけばいいのか」
というところまで考えていて、
わたしたちをうまく舵取りしてくれたので、
とてもありがたかったですね。

岩田

だから今回は、日本とカナダという
地理的に離れている開発だったんですが、
宮本さんのゲームづくりにおいて、
今回も本格的なかかわりのひとつであったというのは
間違いないんでしょうね。

池端

そうだと思います。

ブライス

じつは今回、宮本さんから
開発に役立つコメントをたくさんいただいたので、
それをひとつにまとめてあるんです。
“センセイコメント”として。

岩田

それは『スーパーマリオ 3Dランド』(※6)
ディレクターの林田(宏一)(※7)さんと同じですよ。
彼も“宮本語録”をまとめていて・・・
(宮本ウォッチャーとしての)わたしのライバルなんです。

※6
『スーパーマリオ 3Dランド』=2011年11月にニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
※7
林田宏一=情報開発本部 東京制作部所属。『スーパーマリオギャラクシー』シリーズや『スーパーマリオ 3Dランド』などの開発を担当。過去、社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー』社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー 2』社長が訊く『スーパーマリオ 3Dランド』開発スタッフ 篇社長が訊く『スーパーマリオ 3Dランド』プロデューサー 篇に登場。

宮本

(笑)