開発者寄稿コラム 日本でゲーム作ってます。

まずはスチームパンクのことを 第二回~由来のお話

こんにちは、パウロです。今日は、スチームパンクはどうやって生まれたの? というお話をしたいと思います。(ゲームのお話をお待ちの方、すみません)スチームパンクの原点は、一般的には、19世紀末に書かれた科学小説(英語ではScientific Romanceと申します)であると言われています。Scientific Romanceを代表する作品としては、フランスの小説家 ジュール・ヴェルヌの『海底二万哩』や、フランスのイラストレーター アルベール・ロビダの『20世紀』、そしてイギリスの小説家 HG・ウェルズの『宇宙戦争』などが有名です。いずれも、当時まだ実用化されていなかった潜水艦で深海を旅したり、突然の宇宙人の襲来でパニックに陥る世界を活写した、たいへんに面白い作品です。もっとも、彼ら自身はもうひとつの過去という意味でのスチームパンクを書(描)いていたわけではなく、「きっと未来はこうなる!」と想像したファンタジー・アーティストとお呼びしたほうがいいでしょう。もちろん、19世紀末の科学技術をもとにした想像ですから、21世紀の私たちから見ると、わりとトンデモだったり、微笑ましいものだったりするのも味わいのひとつです。でもきっと、糸や木材、布なんかで作られた蒸気船に乗って海底や宇宙に挑む物語は、当時の子供たちには大変刺激的なものだったはずですよ。実際、19世紀末のアメリカでは、少年発明家が大活躍する物語が流行しましたから。フランク・リード、ジャック・ライト、トム・スウィフトといった天才少年が、蒸気仕掛けのロボットや乗り物を発明する楽しいお話です。さて、先ほど、原点についてお話しした際に「一般的に」と申しましたのには訳がありまして、私が思うに、スチームパンクの原点は19世紀よりも古い時代にも見ることができるのです。サモサタ(現在の中東地方です)のルキアヌスという人が、2世紀(ローマ時代ですね)に書いた『本当の話』は、世界最古のSFだなんて言われてますし、17世紀フランスのシラノ・ド・ベルジュラックが書いた『月世界旅行記』というお話もあります。どちらの物語も、船がつむじ風にのって空を飛んだり、今の我々から見たら荒唐無稽な方法で宇宙旅行に行くお話です。特に『月世界旅行記』には、当時最先端の技術だったロケット(当時のそれは火薬で筒を飛ばす花火のような原始的なものですが)や、太陽電池みたいな疑似科学装置で進む船が登場し、スチームパンク愛好者としては、大変に味わい深い作品となっております。また、『本当の話』は、荒唐無稽な旅行記が流行し、みんながそれを簡単に信じてしまう当時の世相を皮肉ったパロディとも言われ、「パンク」精神に満ちております。(スチームパンクのパンク、というのは、世相から距離を置いて、常識を覆そうという気概や、人々の心に潜む不安や怒りに向き合おうという、サブカルチャーのことです。)日進月歩の未来を想像し、またそこに現実世界への風刺を潜ませる作品作りは、意外と古今に通じるものがあるんじゃないかと、そのように思う次第です。さて、だいぶ話をそらしてしまったので、反省して話を19世紀に戻します。科学小説(Scientific Romance)は、科学技術がもたらす輝かしい未来を予想したものでしたが、実際には第一次大戦という暗い時代の訪れとともに終焉を迎えます。さらに追い打ちをかけたのが、20世紀の急速な技術革新ですね。蒸気機関はすたれ、作家たちが思い描いたアイデア自体が、古くさい陳腐なものになってしまいました。少々話が長すぎましたでしょうか。お待たせいたしましたが、ここでようやく、スチームパンクがいかに生まれたのか、のお話です。いったん時代遅れで格好悪いものになってしまった科学小説の世界観を、「レトロはクールだ!」というコンセプトのもと、近現代の観客層のために再構築したのがスチームパンクなんですよね。1929年に『竜宮城(The Mysterious Island)』という映画が、50年以上も前のジュール・ヴェルヌの小説を元に制作されます。科学小説が予想した「いまや古くさい未来像(レトロフューチャー)」を、そんな未来は来なかったと承知のうえで、わざと再現してみせたのは、この映画が初めてなんじゃないでしょうか。ちょっと、時代の先を行き過ぎていたようで、あまりヒットしなかったようですが。このコンセプトが世に受け入れられるには、さらに20年近く、同じくジュール・ヴェルヌの小説を実写映画化した、ウォルト・ディズニーの『海底二万マイル』(1954年)を待たねばなりません。世界中の人々を魅了したこの映画は、非常に多くの影響を後世に与え、スチームパンク的世界観のひとつの原型になったと申しても過言ではないです。すこしマニアックな話で恐縮ですが、私としては、やはりジュール・ヴェルヌの小説の映画化を行った、チェコのカレル・ゼマン監督も外せませんね。鬼才ジョルジュ・メリエス(数々の撮影手法の基礎を作ったと言われる黎明期の映画監督です)の影響を受けたであろうゼマンは、ジュール・ヴェルヌの書籍を飾った挿絵版画の雰囲気を再現した、素敵な映画を何本か残しています。これらの映画がスチームパンクの大元なのは間違いないと思いますが、でもですね、「スチームパンク」という言葉そのものが登場するのは、さらにその20年後だったんです。なんと気の長い話でしょうか。みなさんも私が好きな話ばかり聞かされて、退屈したでしょうか。さすがに長くなったので、今日はここまでにしたいと思いますが、次回は、この長くなった歴史のお話をすぱっとまとめてしまうつもりです。それに、そろそろゲームのお話もしないとお叱りを受けるかと思うので、今日ウェブサイトで紹介した、ゲームの登場人物についてのお話なんかもしたいなと思っています。次回は、5月8日頃に寄稿させていただく予定です。みなさん良い週末をお過ごしください。