開発者寄稿コラム 日本でゲーム作ってます。

まずはスチームパンクのことを 第三回~由来のお話、完結

こんにちは、パウロです。みなさまいかがお過ごしでしたか?今日は、長くなってしまったスチームパンク誕生の話を片付けてしまおうと思います。前回、スチームパンクという言葉が生まれるまでに、大ヒット映画『海底二万マイル』が生まれ、ゼマン監督が映画を撮った後、さらに20年近くかかったと申しました。(『海底二万マイル』から起算すると優に30年。)1987年に、『Morlock Night』で知られる小説家 K.W.ジーターが、雑誌に宛てた手紙において、レトロ的(特にヴィクトリア朝の時代)な背景を世界作りに使ったSF小説の名称として「スチームパンク」という言葉を提案し、ようやく名前がついたのですよ。K.W.ジーターは、同世代(1950年代生まれ)のティム・パワーズ、ジェームズ・P・ブレイロックと並び、スチームパンク小説の旗手とも呼ばれるべき作家さんです。彼らが生まれ育った1950年~1960年代は、悲惨な大戦がようやく終わり、再び、さまざまな技術革新が、世界を、人類を遥かな高みに押し上げてくれるんじゃないか、そんな明るい夢が生まれた時代でもありました。当然、SFも大いに花開いた時代で、アイザック・アシモフが銀河帝国の興亡を描いた小説『ファウンデーション』や、テレビドラマ『スタートレック』、映画『2001年宇宙の旅』が輝く星々のように生まれました。でもですね、この時代もまた70年代に入るころには終わりを告げるのです。再び国際対立が激化し、また、さまざまな文化の変容が起きます。SFもまたその影響を受け、「現実的で泥臭い」作品が作られていくようになりました。夢のある洗練された『2001年宇宙の旅』の未来像とはかけ離れた、「パンク精神」を帯びた作品が次々と生まれるようになるのです。『スター・ウォーズ』も、こうした時代の美意識を反映した不朽の名作のひとつだと、私は考えています。さて、こうしたSFをとりまく大きな動きの中で、1980年代に「サイバーパンク」というジャンルが生まれます。サイバーパンクというのは、パーソナルコンピューターが普及し、ネットワークの概念が生まれる中、人間がコンピューターやネットワークと融合していくと、どんな世界になるのか? という空想科学ですね。人の肉体・意識の変容を想像するとともに、乱れた暗い近未来を活写しました。ウィリアム・ギブソンの小説『ニューロマンサー』(1984年)や、映画『ブレードランナー』(1982年)がその代表作です。「泥臭い」SFの設定を更に身近に落とし込み、ハイテックでありながら、人間から人間性を奪おうとする近未来の大都市を描く傑作が揃っています。このサイバーパンク全盛の中、K.W.ジーターは、雑誌に宛てた手紙において、近未来ではなく、ヴィクトリア朝時代を舞台にした自分たちの作品を代表する言葉として「スチームパンク」を提案するのです。(つまり、サイバーパンクという言葉が先に生まれ、スチームパンクと言う言葉は、その次に生まれたわけです。)やっと、本当の意味でのスチームパンク誕生ですね。辛抱して読んでくださったみなさま、ありがとうございました。現代を振り返ると、ファンタジーや、SFといったジャンルは、サブカルチャー的な魅力を持っており、「ヲタク文化」が主流になったと同時に、ファンタジーとしても定番な設定となってきましたね。1990年代から現在にかけて出版され続けている『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』という、アラン・ムーアによるアメリカンコミックなんかは非常にわかりやすい例ですが、実は多くのビデオゲームの世界設定にも活かされております。また、ファッション業界でも有名ブランドがスチームパンクのラインを発表したり、意外と様々な分野で影響を与えているんじゃないでしょうか。さて、来週5月14日は、『Code Name: S.T.E.A.M. リンカーンVSエイリアン』の発売日です。毎週金曜日掲載だったこのコラムも、それにあわせて14日に掲載できればと思っています。それではみなさま、よい週末をお過ごしください。