開発者寄稿コラム 日本でゲーム作ってます。

『Code Name: S.T.E.A.M.』のキャラクターたち 第二回~カリフィア、オズの国の住人達

こんにちは、パウロです。先週に引き続き、ゲーム中に登場させたキャラクターのお話をしたいと思います。カリフィアという女王様『Code Name: S.T.E.A.M. リンカーンVSエイリアン』のメンバー表を決める際にもっとも配慮したことは、アメリカの多様多彩な文化風景を築いた様々な人々を、できるだけ代表しているメンバーで構成することでした。12人だけなので、すべてを代表させることはもちろん無理なのですが、年齢・性別・人種等のバリエーションをそれなりに誇ることができるチームを作れたのではないかと思っています。一方、世界観の縛りとして19世紀の小説やアメリカ本土の民話や神話である必要もありました。そこで若干困ったのは、私の頭の中で「積極的に戦うパワフルなアフリカ系の女性を入れたい」というキャライメージがあったのですが、それに当てはまるキャラは中々見つからなかったのです。そこで意外なところから着想を得ることになりました。何かと言いますと、私は大学の修士課程において、実はシェイクスピアの晩年の「ロマンス劇」(『冬物語』『テンペスト』など)を専門にしていたのです。ちょっと専門的な話で恐縮なのですが、これらの作品における一つの共通点として、「文明的」と言われる場面と「牧歌的」な場面の混成という特徴があります。前者はヨーロッパの貴族であったり、後者は彼らが遭難した、絶海の孤島の住人だったりします。「牧歌的な場面」の構成の中には、当時の大航海時代における、ヨーロッパ人が、初めて出会った「新世界」(アメリカ大陸ですね)のミステリアスな魅力への憧れが多分に含まれております。そして、「ロマンス劇」を研究していた頃、私は、スペイン人のガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボの『エスプランディアンの冒険』という、16世紀の長~い小説に出会いました。その小説にですね、グリフィンという神話上の動物に乗って戦う、輝く黒い肌を誇るアマゾネス軍団の女王・カラフィアが登場するのです。『エスプランディアンの冒険』は、ながらくヨーロッパの脅威であったオスマントルコ帝国と、騎士の戦いを描いた冒険小説なのですが、その中で、最初トルコ軍の一員として、カラフィアは登場するのですね。で、彼女が治める女性だけの島がインドか中東あたりにあり、「カリフォルニア島」という名前であると、そのように小説に書いてあるわけです。最初、インドに行くつもりでアメリカ大陸に到達したスペインの冒険家たちは、まずメキシコに勢力を築き、北上して現在のカリフォルニア州に行きつくわけですが、そこを島だと思いこんで、馴染みの小説の中の名前をつけたというのです。ですので、元々インドか中東あたりにあったはずのカリフォルニア島や、そこを治める神秘的な女王様は、いつの間にアメリカにお引越しとなり、モンタルボの小説の中の女王様は、アメリカという新しい国家の民間伝承、自然豊かなカリフォルニア州の守護神となったわけです。このお話を思い出した私は「これだ!」と思って、自分の頭の中で未だ形をなしていなかった、「アフリカ系の女戦士」に、姿と名前を与えることができたのです。ゲームでの描き方カリフィアの名前ですが、もともと「カラフィア」という綴りでしたが、ゲームでは「カリフォルニア」とのつながりを強調するために、「カリフィア」ということにしました。それ以外は、自分がモンタルボの小説を読んで、想像したキャラクターをそのまま再現したつもりです。つまり、プライドが高いが、実力や勇気は男性の仲間を圧倒する、不死身のウォリアー・クイーンです。小説の設定である、カラフィアと傘下のアマゾネスたちの純金の武器や、乗用動物であるグリフィンというモチーフを ― 非常に抽象化した形ですが ― カリフィアのアーマーデザインに取り入れました。初期段階ではグリフィンの爪のような近接武器も持っていましたが、ゲームが現在の形へと進化した過程においてボツにしています。声優をしていただいた、キンバーリー・ブルックスさんの力強い声の演出は、カリフィアというキャラクターの最後のパズルのワンピースとなり、チームでもっとも印象に残るのではないかと思われるキャラクターができあがりました。オズの国の住人達『Code Name: S.T.E.A.M. リンカーンVSエイリアン』を通じて、それほどメジャーではないアメリカの民話や小説のキャラクターをお客さんに紹介したいという気持ちがありました。先ほど語ったカリフィアはまさにその一つの例です。他方では、誰も知らないキャラばかりで構成されたチームだと、とっつきにくいので、間口を広げるために、世界各地で通用するキャラも必要であると思いました。アメリカの20世紀以降の文化は、主にハリウッド映画や音楽やゲームを通じて世界に渡っていますが、19世紀までの文化遺産はそうでもありません。そこで、「アメリカでも、日本でも、欧州でも通じる、純粋にアメリカンのキャラクターは何でしょう?」と問うたときに、やはり『オズの魔法使い』にほかならないと考えたわけです。『オズの魔法使い』は児童小説の金字塔の一つだと思いまして、私が子供の頃に本がボロボロになるほど何回も読みました。周辺に確認したところでも、ほとんどの方がご存じだったので、「あ!これなら、私も知っている!」と、お客様に安心感を与える看板キャラとして、小説に登場する4人の仲間を登場させることにしました。『オズの魔法使い』は児童文学として、そしてとてもカラフルなミュージカル映画としても有名ですが、あまり知られていない説として、実は政治風刺小説であったとも言われます。著者のライマン・フランク・ボーム氏は、それぞれのキャラクターを、当時白熱していた「金本位制」と「銀本位制」を巡る争いの当事者たちのメタファーとして描いたという説があるのです。(たとえば、黄色いレンガの道と銀の靴が出てくるでしょう? それが2つの貴金属のメタファーだというのですね。)この小説には他にも都市伝説があり、正直なところ、真実は誰も知ることができませんが、私のもっともお気に入りの「オズ陰謀論」があります。イギリスのバンド・ピンクフロイドの『狂気』というアルバムを、1939年の『オズの魔法使い』の映画化と同期して再生すると、音楽と映像の間に意味ありげな「シンクロニシティ」があると言う伝説です。バンドメンバーは何度もこれは単なる偶然だと主張してきましたが・・・映画も音楽もどちらも素晴らしいので、試してみても損はありませんよ。ゲームにおけるオズの市民『オズの魔法使い』を巡る、こうした諸々の都市伝説を、何らかの形で活用できないかなと、一時期悩んでいましたが、ゲームの全体的な明るくて、軽めのノリの雰囲気とマッチしていないので、最終的にこれらのキャラクターは、純粋にキャストに更なるバリエーションを与えるものとして使うことにしました。ライオンのモチーフで飾られた武器で自分自身を遠方に発射する「ライオン」。ちょっと不気味だけど、なんだか可愛い「スケアクロウ」。蒸気の力で動く「銀の靴」を履いた「ドロシー」。彼らは、スタッフの様々なメンバーから貰ったアイデアを元にして、お馴染みキャラクターたちを、新鮮な形で再解釈できたんじゃないかと、誇りに思っています。そして、一番うれしく思っているのが、「ティンマン」ですね。(ティンマンは、ドロシーと並んで「隊員名簿」のページには載っていないキャラですが、発売日であり、思い入れの強いキャラなので紹介させてください)なぜなら、アメリカの近代の歴史に大きく貢献した日系コミュニティーを象徴するキャラが欲しかったのですが、日系人は比較的に新しい存在であり、昔の小説や民話には登場しないので、困りました。そこで、ティンマンというキャラに関しては、比較的に自由な解釈をしようと決め、更に「メカ」という、日本を代表する文化と絡め、ティンマンを鋼のサムライにしようということになりました。この設定を出発点として、煙突になったちょんまげや、「心」という字が書いてある心臓の穴(小説を読んだ方々はお分かりかと思いますが・・・)など、オリジナルなディティール設定が次々と浮かび、大胆でありながら、古いキャラクターに新しい命を吹き込むようなデザインが生みだせたのではないかと思います。あと、このキャラクターのスチームポイント回復の能力が大好きで、私がチームを組むときは中々外し難い、定番のメンバーにもなりました。キャラクターの紹介については、これでおしまいです。来週も少しだけこのコラムを続けさせていただきたいなと思ってまして、別なテーマを考えております。それではみなさま、『Code Name: S.T.E.A.M. リンカーンVSエイリアン』を、よろしくお願いいたします。