開発者寄稿コラム 日本でゲーム作ってます。

『Code Name: S.T.E.A.M.』のキャラクターたち 第一回~ヘンリー・フレミング、ランドルフ・カーター

こんにちは、パウロです。先週申しましたように、こちらではもう少しゲーム作りに踏み込んだお話をしたいと思います。先週、「隊員名簿」で紹介されたキャラクターたちのお話です。まず、『Code Name: S.T.E.A.M.』というゲームではいわゆる主人公的なキャラクターは存在させない、ということを非常に早い段階で決めていました。なぜなら、「仲間と共に戦う」「チームとして戦う」というのが、ゲームコンセプトの一つの柱だったからです。また、操作可能なキャラクターを大勢登場させた理由なんですが、それはアメリカの多様的な文化を代表しており、遊んでくださる方の文化的背景やプレイスタイルに合わせ、一人ひとりが「お気に入り」キャラを選んで、「自分だけの主人公」にしてほしかったからなんですね。さらに、万能的なキャラがおらず、常にシチュエーションや任務に応じてそれぞれの力を合わせて解決しなければならないので、ある意味でゲームの主人公はS.T.E.A.M. という組織そのものであって、それぞれの隊員は、S.T.E.A.M. というメタキャラクターを、人格で切り分けたものだ、という考え方もできます。そう言いながらも、ゲームの「顔」となるようなキャラ、そしてこのチームを団結させる存在が必要だったので、その役割を果たすようになったのが、ヘンリー・フレミングです。ヘンリー・フレミングとは何者か『Code Name: S.T.E.A.M.』の世界観のコンセプトを要約しますと、「もしもアメリカの小説や民間伝承が、すべて、同時に、本当だったら・・・」ということになります。この仮想現実を構築するためのソースは、ネイティブアメリカンの神話から、都市伝説、さまざまな小説まで、バリエーションに富んでいます。しかしながら、時代設定を南北戦争直後に決めた時点で(正直なところ、きっかけはよく覚えていないのですが)、最初に私の頭に浮かんだのは、小説家スティーヴン・クレインによる『The Red Badge of Courage』(1895年)の主人公、南北戦争の志願兵 ヘンリー・フレミングでした。その理由は、おそらく、私の中で、その若者こそが、アメリカ国民の精神を代表する特徴を、見事に擬人化しているからだと思っています。その特徴とは、本能的な正義の価値観、率直な理想主義や壮烈さです。小説におけるヘンリーの成長への旅路は、ある意味、比較的若い国家であるアメリカの成長のメタファー(たとえ)でもありまして、彼の心の中に繰り広げられる理想と現実の戦いも、アメリカの現在の有様を決定した歴史的内戦「南北戦争」の写し鏡と言えるのです。南北戦争は、1861-65年に、アメリカが北の州と南の州にわかれて行った内戦です。北側の代表がリンカーン大統領でしたし、『トム・ソーヤの冒険』の作者 マーク・トウェインが、南側に志願して戦っています。昔、小説を読んだ際にヘンリーにもっとも惹かれたのは、その人物描写のリアリティーでした。彼は完璧なヒーローではなく、戦争という過酷な現実を目にした普通の人間が抱くであろう、矛盾や不安を胸にしています。彼は最初、ギリシアの古典文学に登場する英雄たちに憧れており、それをきっかけに北軍に志願しますが、初めての戦いではおびえてしまい、戦場から逃亡してしまいます。『The Red Badge of Courage』というのは、作中で「名誉の負傷」を指す言葉ですが、逃亡したヘンリーの場合は、実はそれが正々堂々の戦いによるものではなく味方兵に殴られた痕だったわけで、いわば「偽物の勲章」なのです。しかし、そこでヘンリーは、自分が古典文学から夢想するようになった「英雄像」こそが偽物だと気づき、戦闘に戻り、仲間のそばで戦い、皆に対しての義務を果たすことだけが「英雄」の証であることを理解するようになります。ゲームにおけるヘンリー・フレミングの設定ゲーム内のヘンリーは、小説における精神的葛藤を抱えた青年ではなく、頼りになるベテラン兵士に成長しています。戦争の経験を通して、年に似合わない見た目と性格をもっています。しっかりとした男で、リーダーの特性のすべてを自然と備えており、S.T.E.A.M. に加入してからまもなく、リンカーンの右腕になって、実質上皆のリーダー的な存在ともなります。最近のゲームではダークヒーロー的な存在がかなり流行っており、それはそれで魅力的なのですが、我々はわざとそれを避けて、プレイヤーが憧れやすい、ストレートに理想的なキャラクターを描いたつもりです。正統派のキャラクターの目から見た、ゲームの変わった世界を描くことで、興味深いコントラストをなすのではないかというのも狙いのひとつです。また、温かみのあるキャラクターの存在が、ゲームを遊んでくださる方にとって、このゲームと現実社会を繋ぐアンカーのようになってくれたらとも思っています。?今日はもう一人、ランドルフ・カーターについてお話しさせてください。アンチ・へンリーとしてのランドルフ・カーターヘンリーがS.T.E.A.M. の理想、良心を体現する存在だったとすれば、ランドルフはその知性であると同時に、人間の無意識に潜む、宇宙に対する畏怖から生まれた、ダークな存在と言えます。発売間近なので思い切って申しますと、『Code Name: S.T.E.A.M.』の世界で地球を襲っているエイリアンたちは、小説家H.P.ラヴクラフト(1890 ? 1937)が築き上げた、いわゆる『クトゥルフ神話』のモンスターたちと因縁があるのです。ランドルフ・カーターを参戦させ、クトゥルフ神話という近代アメリカが生んだ神話体系をモチーフに取り入れたのは、アメリカ史上最強の大統領リンカーン率いるアメリカンヒーロー軍団にとって、宇宙レベル・神話レベルのよほど強大な敵じゃないと、釣り合わないぞと思ったからです。また、ゲーム、漫画をはじめとする娯楽文化に対して、ラヴクラフトの作った世界観が、実は大いに影響を与えてるんじゃないかと思ってまして、それをしっかりと認識・リスペクトするためにも、味方側にも参戦させたかったのです。そこでも、じゃあ誰にするかと悩むことはほとんどなく、ラヴクラフト本人の化身として複数の小説に登場するランドルフ・カーターしかいない、と思いました。唯一の問題としては、小説の中では彼が1920年代に生きているという設定がありまして、南北戦争直後としては少し時代が合わない。でも、彼は「銀の鍵」というアイテムで、時空を超えた次元にアクセスできるという設定もあるので、「時代」なんていうみじめな制約には囚われまいと思ったわけです。ゲームにおけるランドルフ・カーターの設定前述のように、小説ではランドルフは作者の化身であるため、基本的にオブザーバーや物語の語り手という役割を果たすことが多いですね。そのため、ゲーム中のキャラメーキングで工夫が必要でしたが、性格を独自に作り込むことはせず、一応、ラヴクラフトはこんな人だったのではないのか? という推測を少々盛り込むことで対処しました(もちろん、すべて盛り込んだわけではありません)。ゲーム中のランドルフは表面的には紳士らしく、でも自分の才能に若干うぬぼれ気味の、中年のオカルト学研究者として登場します。声や振る舞いから受ける印象は若干臆病で、神経質に映る傾向にありますが、それと同時に宇宙の彼方から襲来したエイリアンに対して、周囲が心配になるほどの関心を示します。ランドルフはS.T.E.A.M. が信頼を置く有能な隊員ではありますが、この危うげなところを活かして、プレイヤーにちょっとした不安を与える存在として使うことにしました。また、ヘンリーが、突然のエイリアンの襲撃に驚く、普通の人の視点からの語り手であることに対して、ランドルフは闇の世界を熟知している玄人としての知見を披露してくれます。ゲーム中に「資料室」というコーナーがあり、そこで彼によるエイリアンの解説を見ることができますので、ぜひ目を通してみてください(しばらくゲームを進める必要がありますが)。来週14日はいよいよ発売日です。その日も、キャラクターの話を続けさせていただく予定です。では、みなさま、よい週末をお過ごしください。